国家情報局創設への懸念と課題
日本のデジタル脆弱性が明らかになる中、自民党は11月14日、小林鷹之政調会長を本部長とする「インテリジェンス戦略本部」を立ち上げて初会合を開きました。党内の論点を整理し、司令塔と位置づける「国家情報局」の創設や、「スパイ防止法」の制定に向けた準備を開始する模様です。
しかし、国家情報局の設置やスパイ防止法の制定に対しては、言論や表現の自由を脅かし、市民活動などの監視強化につながるとの慎重論が根強くあります。日本には、戦前から戦中にかけて、特高警察や憲兵が国民を監視し、反戦思想や反戦活動を徹底的に弾圧した過去があるからです。
高市首相は、いわゆる「インテリジェンス」機能の強化をかねてから主張しており、国家情報局の設置を総裁選での公約に掲げ、維新との連立政権合意書にも盛り込まれました。皮肉を込めて言えば、ウクライナ戦争に対するスタンスや、今回の中国を無意味に刺激した発言が象徴するように、自民党政権のインテリジェンス(情報収集能力や判断能力)レベルは、一般国民レベルと同等か、それ以下とも言える印象です。インテリジェンス強化に欠かせないデジタルについても、デジタル庁なるものを創設して以来、そのトップに就いた顔ぶれはどれも頼りない面々ばかりで、寒々しい限りです。
さらには、単に入れ物や法律を整えたところで、国際政治情勢の機微を読み取る情報収集能力や分析能力を備えたプロフェッショナル人材や、セキュリティーに精通した天才ホワイトハッカー的な人材を一定数確保しないことには、インテリジェンスなど絵に描いた餅に過ぎません。仮にそのような人材がいたとしてもそこら中で獲り合いですし、経産省の推計によると、2030年までに日本国内で最大79万人のIT人材が不足するとされます。
日本をデジタル強国にするだけでなく、一流のインテリジェンスを備えた国にする道のりは、今のところまだ歩み始めたばかりで先が見えません。特にインテリジェンスについては、情報収集能力や分析能力等の強化が必要なことは理解できるものの、現存する各種情報機関の司令塔として新設が予定されている国家情報局の役割や権限、そしてそのリスクについては慎重な議論が必要です。前述した歴史からの学びを十分に活かしてほしいですし、直近では「大川原化工機事件」の記憶も新しいところです。
インテリジェンスといえば、米国のCIA、英国のMI6、ロシアのFSB、イスラエルのモサド、韓国のKCIAのような機関のことがすぐに頭に浮かびますが、国家情報局はこれらをモデルとして想定しているのでしょうか。想定しても簡単に作れるものではありませんし、そもそも国家情報局なる組織が本当に必要なのか等、国家情報局ありきではなく、入口のところからしっかり議論して進めてほしいですし、拙速な動きには警戒が必要だと思います。(本記事は『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中 』2025年11月28日号の一部抜粋です。この機会にぜひご登録をご検討ください)
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