「イランの体制転換」を狙うイスラエルの長期計画
まず「誰が得をするのか?」についてですが、これはトランプ大統領でもアメリカでもなく、ネタニエフ首相であり、イスラエル政府だと考えます。これは「では、何の目的で行われたのか?」という問いにも直接繋がりますが、【イランの体制転換(Regime Change)】であり、これは30年来のイスラエルの悲願の実現のために行われたと言い切れます。
ガザでの蛮行に対するトランプ政権の過剰なまでのイスラエル贔屓もそうですし、ハマスとの間接協議において提示してきた停戦案も悉くイスラエル寄りのものといえますが、このイスラエルべったりのアメリカ政府の姿勢は、政権によって強弱の度合いに違いはあるものの、一貫した外交方針です。
それをネタニエフ首相およびイスラエルは利用し、様々な形で実質的にワシントンDCの政治プロセスを“所有”することで、これまでに中東地域で戦争を引き起こしてきました。
リビアのカダフィ大佐掃討作戦、スーダンへの介入、ソマリア、ガザ、ヨルダン川西岸地区におけるユダヤ人入植地の拡大、レバノンのヒズボラへの攻撃、シリアへのあらゆる介入、イラクでの戦争、イエメン(フーシー派)への介入など、イスラエルがアメリカを利用して戦争を引き起こし、宿敵を倒してきたケースを数え上げるとキリがありませんが、その中でも最大の獲物こそがイランでした。
トランプ政権の強硬なイランへの姿勢を利用し、トランプ政権に“イランの核開発の疑念”を示し、バンカーバスターまで投入させてイランへの直接攻撃にアメリカを引きずりこみ、今回、イランに対する大規模攻撃にアメリカを参加させました。
これこそがイスラエルの地域における長期計画であり、その計画の実現のためにアメリカを引き込んで、アメリカの圧倒的な軍事力を盾にしたイスラエルの揺るぎなき一強体制の確立です。
そこに自国の核兵器とアメリカの核兵器が加わり、結果としてアラブ社会の抑圧を強化し、最終的には中国とロシアを中東地域から追い出すという、地政学的な動きといえます。
このイスラエルと米国の企てに中東アラブ諸国は気づいていたため、イスラエルに抵抗するための塊を作るため、中国とロシアを引き入れ、長年のライバルであったイランとも手を結んで基盤を固めつつ、アメリカをイスラエルから少しでも切り離すために、親米的な態度を取り続けるという、非常にデリケートなバランス外交を展開してきました。
今回のアメリカとイスラエルによるイランへの攻撃への報復として、以前よりイラン政府は周辺国に散らばるアメリカ軍基地およびイスラエル全土を対象とすることは明確に述べつつ、「そのようなケースにならないことを望むし、そのための努力は惜しまない」と至る所で明言し続けていました。
ゆえに、アラブ諸国も領土内のアメリカ軍基地への攻撃は想定しつつも、インフラや市民施設への攻撃はないと考えていた模様ですが、イランの体制内では空港機能の停止や物流網の停止(ホルムズ海峡の閉鎖など)が、ハメネイ師が死亡した場合に取る戦略として含まれていたことで、アラブ諸国への攻撃が拡大するという不幸な結果になっており、反イスラエルの塊の結束に歪みが出るという流れになってしまっています。
ただ、アラブ諸国も報復攻撃の可能性を示唆しつつも、まだ行っていない理由の一つに「アメリカとイスラエルが主張する“イランからの差し迫った脅威”の存在」に対する大きな疑念が渦巻いているため、まだ本格的な対イラン戦争には踏み切っていません。
かなりすれすれのラインでの攻防になっていることは確実ですが、GCC(湾岸協力会議)諸国間で諸々の真偽を確かめ合う作業が進められています。
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