可能性ゼロではないトランプの「勝利宣言」による和解
このコラムでも何度かお話ししているように、クリントン政権に端を発し、オバマ政権時代に“世界の警察官”であることを止めたアメリカの決断は、中ロの影響力と野心・野望を伸長させ、「何かあれば、アメリカが介入してくる」という脅しがないことに気付くと、世界各地で溜まったストレスと野心が爆発し、戦争・紛争が頻発する事態になっています。
イラクでの失敗、アフガニスタンでの失敗を経て、すでにアメリカは世界の警察官として君臨する力と政治的な支持を失っていますが、世界最強の圧倒的な軍事力は、中ロに代表される権威主義国家や、非政府武力組織、テロリストなどが他国や一般市民を武力によって脅し、自由や財産を奪うという破滅的な行動に出ることを思いとどまらせる“抑止力”として作用するべきです。
アメリカ一国ですべての紛争の芽を摘むことは現実的ではないと考えますが、各国・各地域が勤める和平努力や紛争の予防という動きに対して、アメリカは力を貸し、協調の下で安定を取り戻し、維持するという力の使い方をすることが、破滅的な状況を反転させ、再びデリケートな安定を国際社会に取り戻し、国際秩序を再構築する鍵になると考えます。
トランプ大統領が再登板し、第2次政権が始まった際に、出口の見えない数々の国際紛争を停戦に導くべく、次々と仲介の労を担おうとしたことは、高く評価しています。
ただ大きな間違いを犯したとすれば、トランプ大統領のアメリカは、中東情勢ではあからさまにイスラエル側に立ち、反イスラエル勢力を徹底的にこき下ろしたことや、ロシア・ウクライナ戦争の仲介においても、自らの個人的な憧れもあるのかと想像しますが、ロシアに有利な条件を提示し、自らの言うことを聞かないウクライナを激しく非難したことで、超大国アメリカの影響力を適切に用いて、戦争を半強制的にでも終わらせる絶好の機会を失ったと見ています。
適切に力を用いる代わりに、トランプ大統領のアメリカは自らイランでの戦争をはじめ、ベネズエラを侵攻し、そしてウクライナに圧力をかけてロシアの企てを後押ししています。
また中国のアジア太平洋地域における影響力の伸長と台湾海峡における緊張の高まりに対しても、これまでの“相互認識の上での軍事的な警告合戦”による安定という手法を使うことなく、口ばかりの非難と関税という経済的な措置を通じて中途半端な駆け引きに頼ることで、アメリカの持つ軍事・経済両面での圧倒的な力の誇示による中国の野望的伸長に対する抑止という、絶妙な策を自ら捨てているように見えます。
意地のぶつかり合いと、言行不一致の対応が鮮明になる中、米イラン間の次の協議の予定が立たない憂慮すべき状況が続いています。アメリカもイランも振り上げてしまった拳を下げる機会を逸し、そこにトランプ大統領の自尊心に付け入って仲介役を手に入れたパキスタンの不思議な立ち位置がより事態を複雑にしてしまい、和平に向けたクリアな道筋を描けない状況が続いています。
まあ、トランプ大統領が気まぐれにでも「勝利宣言」をし、イスラエルを切り捨ててイランとの和解をする可能性はゼロではないのですが、実際にはそれを自らのプライドと、イスラエル支持層からの突き上げが許してくれないでしょうし、イランもまた中途半端な形での停戦が現体制の終焉を後押ししかねないとの懸念もあるため、なかなか落としどころが見つかりません。
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