ホルムズ海峡封鎖が本当に恐ろしい理由。「原油価格高騰」より深刻な世界経済の“信頼コスト”

 

警戒すべき「予防的エスカレーション現象」という状況

そのため現在のイスラエルの安全保障戦略は、従来の“攻撃されたら報復する”という抑止モデルから、“相手の能力が完成する前に削る”という先制的安全保障モデルへ移行しつつあります。

だからこそ、【シリア領内攻撃】や【レバノンにおけるヒズボラ関連施設への攻撃】、そして【イラン革命防衛隊関連目標への圧力の強化】が継続しています。

イスラエルの考え方によると、【周辺国の親イラン組織はイスラエル国家および国民の生存の確保に対する最大の脅威であるため、先に脅威を潰すことが大事である】ということになりますが、ここで重要なのは、相手側もまた、「今、イスラエルに反撃しなければ、将来、自分たち・自国の存亡を脅かしかねないもっと危険な状況になる」と考え始めることです。

これを紛争調停では、【予防的エスカレーション現象(Preventive Escalation Symptom)】と呼び、警戒するべき状況として挙げています。

この“予防的エスカレーション現象”により、双方とも、【自国・自信の防衛のために動いているつもりが、結果として戦争リスクを高めてしまう】という典型的な紛争拡大の形態に陥る危険性に直面しています。

今の中東は、まさにこの構造に入っています。

その典型例がレバノン情勢の緊迫です。レバノンは一言で言うと【国家が機能しにくくなった危険地帯】と表現できますが、中東情勢の中で最も危険な火薬庫の一つに挙げられます。

レバノンは、長年続く経済危機や実質的に無政府状態といっても過言ではない政治的混乱の長期化、通貨レバノン・ポンドの暴落、インフラの破壊、そして宗派の対立の激化により、国家機能そのものが大きく弱体化しています。

その中で、イスラエルによって攻撃を加えられ、リーダーが相次いで暗殺されていますが、それでも圧倒的軍事力と組織力を維持しているのがヒズボラです。

実質的に、レバノン南部でのヒズボラの統治・支配力は圧倒的で、精密誘導ミサイルやドローンを用いた越境攻撃能力を持ち、イスラエルへの攻撃を繰り返しており、それにイスラエルも本気で応戦しているため、イスラエル北部・レバノン南部の国境線は“中東全体のエスカレーション起点”になってきています。

アラビア半島の西側ではイスラエルとヒズボラ(レバノン)・ハマス(ガザ)との紛争が激化し、東側ではイラン情勢が緊迫の度合いを高めていますが、一見、別物に見えるイランとレバノン情勢は、完全に切り離して考えることはできません。

ここで強調しておきたいのは、現在の中東紛争は、従来型の国家対国家戦争ではなく、“ネットワーク型紛争”であるという点です。

イランは長年、直接、イスラエルや周辺国との全面戦争を避けながら、地域内に影響力を構築してきました。その中核の一つがヒズボラです。イラン側から見ると、ヒズボラは単なる同盟勢力ではなく、対イスラエル抑止の前方防衛ラインであり、イスラエルがイラン本土を攻撃しにくくするための、戦略的緩衝地帯という認識です。つまり、イラン防衛のための存在という位置づけです。

一方イスラエル側は、一連のイランの動きを対イスラエル包囲戦略と認識し、「イスラエルの安全保障のためにはこの包囲網を崩壊させなくてはならない」と考えて、「自衛のための攻撃」を行っています。

つまり双方とも、自らを相手側からの脅威に対して自衛する“防御側”だと考えていると言え、それぞれが自らの軍事的な行為を正当化する流れになっています。

ここに現代紛争の難しさがあります。

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