「対話」というこれからの時代を生き抜くために最も重要な戦略
では、このような時代に私たちは何をすべきなのでしょうか。
私は国際社会が「勝利を目指す外交」から「管理を目指す外交」という発想へ転換すべき時期に来ていると考えます。
現在の紛争の多くは、誰かが完全勝利できる構造ではありません。
ロシアも決してウクライナ戦争で勝利を収めることは無いでしょうし、それはウクライナにも言えます。イスラエルも、現在、複数フロントで仕掛ける“生存のための戦い”に完全勝利することはないでしょうし、イランも自衛には成功したとしても、対米戦争・対イスラエル戦争に勝利することは無く、またホルムズ海峡の封鎖という最終手段に出てしまったがゆえに、国際経済からも疎外され、今後苦しむことになるため、そこに勝利はありません。
中国も、アジア太平洋地域においては、アメリカの軍事力をすでに凌駕していると考えられ、そこに世界1位か2位の経済力を加えることで、圧倒的なプレゼンスを築くことはできるでしょうが、台湾という象徴的な衝突点へのこだわりは、中国自身の“生存”を脅かす決め手になる可能性が高いため、中国が台湾併合を勝利の条件に挙げるのであれば、中国が現在の混乱の中で勝利を収めることもありません。
そしてそれは絶対的なスーパーパワーとされてきた米国にとっても同じです。
ベネズエラに対する奇襲は軍事的には完全勝利ですが、それによって引き起こした西半球における混乱は、今、触手を伸ばそうとしているキューバへの侵略欲が拡大することで、引き返すことのできない泥沼にアメリカを引きずりこむことになるでしょうし、イランに手を出したことによって、中東地域を失うことにも繋がり、恐らくそれによって、特別な同盟国であるイスラエルを“守ること”も叶わなくなります。
さらには、このままアジア軽視が長引き、中国がその隙をついてくることがあれば、アメリカはアジアを失うだけでなく、中国との直接戦争に引きずり込まれる可能性も高まります。アメリカは経済力でも軍事力でも間違いなく超大国ではありつづけるでしょうが、それでも決定的勝利を得ることは難しいと言わざるを得ません。
誰も決定的な勝利を得ることができないにもかかわらず、多くのリーダーたちは依然として勝利を追い求め、過信と欲に引っ張られて戦いを続けています。
しかし調停の現場で大事にしていることは、この政治的なメンタリティーとは異なります。
調停や仲介の観点から見て重要なことは【誰が勝つか】ではなく、【どこで止めるか・どこで(メンツを守りながら)降りることができるか】という点です。
これからの国際社会に必要なのは、【力によって相手を一方的に変える努力】ではなく、【それぞれの強みを活かして相手と共存する仕組みを構築すること】です。
世界は今、冷戦後、30年間続いてきた国際秩序の終焉を経験しています。だからこそ必要なのは、新たな覇権国家の出現ではありません。
新たな調停の仕組みです。
私が今最も懸念しているのは、戦争そのものではありません。対話の消滅です。
対話が続く限り、解決の可能性は残ります。しかし対話が途絶えた瞬間、残るのは力による強制だけです。
だから私は今週も改めて申し上げたいと思います。
世界が必要としているのは、より強い軍隊ではありません。より多くの調停者です。国家間であれ、企業間であれ、家庭内であれ、最後に未来を決めるのは武力ではなく対話です。
そして対話の扉を最後まで閉じないことが極めて大事です。
それこそが、これからの時代を生き抜くために最も重要な戦略であると私は考えています。
またまた思いが溢れて、非常に長くなってしまいましたが、以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2026年6月5日号より一部抜粋。全文をお読みになりたい方は初月無料のお試し購読をご登録下さい)
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