トランプは中国を本気で締め上げに行くのか?「いかなる者も例外とはならない」対イラン制裁の“限界と現実”

 

【1.通告としての制裁-米国とイランの終着点】

8月24日、ベッセント米財務長官がイランに対する新たな制裁を発表しました。

米財務省の発表によれば、核・ミサイル関連の調達網、サイバー活動、そして石油収入を支える取引網などを対象に、60を超える個人・団体・船舶を制裁対象に加え、イランと取引する第三国にも圧力を広げるという内容です。

ベッセント長官はこれを「経済的追放作戦(Operation Economic Outcast)」と名付け、「世界中に広がるイランの金融ネットワークに経済的な猛攻撃をかける」「いかなる者も例外とはならない」と、かなり強い言葉で語っています。

これを交渉の言葉として読み解くと、興味深い点が見えてきます。

通常、制裁は相手を交渉のテーブルに引き戻すための「レバレッジ(交渉力の源泉)」として使われます。しかし、今回のベッセント発言には「繁栄と孤立、平和とテロ、米国とイランのどちらかを決断する時だ」という二者択一の言葉が繰り返されており、これは交渉のオファーというより、選択肢そのものを狭める通告に近い響きを持っています。

私が交渉・紛争調停の現場で繰り返し目にしてきた光景の一つに、圧力を強めれば強めるほど、相手の指導部は国内向けに「屈しない姿勢」を演出せざるを得なくなるという力学があります。

イランのマザニザデ経済財務相が「我々は万全の準備を整えている」と述べ、アラグチ外相が「以前と同じ脅しに過ぎない」と切り返したのは、まさにこの力学の表れでしょう。

圧力は必ずしも譲歩を引き出すとは限らず、時には相手の姿勢を硬化させてしまうのです。

もっとも、マーケットの反応は驚くほど落ち着いています。8月27日にはブレント原油(北海産の指標原油で、国際的な原油価格の基準の一つ)が1バレル約86ドルまで下落しました。

ただし、これを「市場が危機を無視している」と読むのは、おそらく正確ではありません。むしろ市場は、危機そのものではなく、危機が緩和される可能性─ホルムズ再開への期待─を先に織り込んでいる、と見るべきでしょう。

今回の一件において、イランの最大の貿易相手国である中国の金融機関に、米国が実際に二次制裁を科せるかどうかは不透明なままです。9月に予定される今年2回目の米中首脳会談、そして11月のAPECでの協力を模索するトランプ政権の立場を考えれば、中国を本気で締め上げる選択肢を取りにくいというのが、私の見立てです。

「強い言葉を使いながらも、実行できる範囲には自ずと限界がある」

これも交渉の常です。

この制裁劇の背景には、ホルムズ海峡という物理的な結節点があります。イランは米国の経済圧力に対抗する手段として、海峡に対する管理・影響力を強めようとしています。イラン議会の国家安全保障・外交政策委員会は、通航する船舶からサービス料を徴収する草案をまとめました。

モデルは、この4年間でサービス料を8倍に引き上げたトルコのボスポラス海峡・ダーダネルス海峡です。トルコは灯台運営や海難救助、検疫といったサービスの対価として料金を徴収する権利を、1936年のモントルー条約で認められています。

この記事の著者・島田久仁彦さんの新創刊メルマガ

初月無料で読む

print

  • トランプは中国を本気で締め上げに行くのか?「いかなる者も例外とはならない」対イラン制裁の“限界と現実”
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け