トランプは中国を本気で締め上げに行くのか?「いかなる者も例外とはならない」対イラン制裁の“限界と現実”

 

■「タダ」で存在するものではない公海における自由な航行

イラン司法府の関係者は、これに加えてスエズ運河やパナマ運河の例も引き合いに出しているといいます。ウォール・ストリート・ジャーナルの試算では、イランがこの種のサービス料を課せば、関係国に年400億ドルの収入が入る可能性があるとのことです。

私は、この構図をライン川の歴史と重ねて見ています。The Economist誌が8月25日付の解説記事で、まさにこの構図を歴史の中に位置づけていました。

ドイツのライン川沿いには中世、川幅の狭い場所に城を構え、鎖で船をせき止めて通航料を取る仕組みが数多く存在しました。城の管理者にとって、川そのものの維持コストはほぼゼロですから、通航料はまるまる利益、つまり「経済的レント」になります。

本来のコストを超えて得られる超過利益、と言い換えれば分かりやすいでしょうか。

この種のレントは1867年にライン川で廃止され、翌年の国際条約で完全に撤廃されました。バルト海でも、デンマーク王室が長らく徴収していた通航料が、1857年に列強の圧力で放棄されています。

同誌が指摘するのは、公海における自由な航行というのは、実は「タダ」で存在するものではないという点です。19世紀から20世紀にかけては英国、1971年に英国がスエズ運河以東から撤退した後は米国が、軍事力を背景にこの自由航行という「公共財」を提供し続けてきました。

米国の経済学者チャールズ・キンドルバーガー氏が唱えた「覇権安定論」─世界経済の秩序を保つには、それを担うだけの意思と能力を持つ覇権国の存在が欠かせないという考え方─が、まさにこの構図を説明する理論です。

そして今、米国はこの役割を「意思の欠如」と「能力の限界」の両面から手放しつつある、というのが同誌の見立てです。トランプ大統領はペルシャ湾への部隊派遣に消極的ですし、安価なドローンは、かつて領海の範囲を3カイリと定める根拠になった大砲の射程を、はるかに超える攻撃力を安く手に入れさせてしまいました。

「覇権国が手を引いた後、誰がこの公共財を提供するのか」

今、国際社会に突き付けられている大きな問いです。

カナダのカーニー首相が唱えるような「中堅国」の連携に期待する声もありますが、ドイツの経済学者3人による2025年の論文は、これに懐疑的です。

国家間のパワーバランスが均衡するほど、ただ乗りや駆け引きが助長されるという理屈で、私自身の交渉経験からしても、この指摘には頷ける部分があります。当事者が拮抗している状況というのは、実は最も合意形成が難しい状況でもあるからです。「誰か一人が突出して損得を引き受けない限り、公共財は維持されにくい」というのが、国際秩序を語る際の鉄則です。

皮肉なことに、記事はライン川の水位そのものが記録的な低さにまで落ち込んでいる事実にも触れています。

「通航料を議論する以前に、そもそも大型船が航行できないほど川が渇いている」

覇権をめぐる駆け引きも、自然の前では意外なほど無力なのだと気づかされる話です。

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