【2.入植地と孤立-イスラエルの一手】
中東のもう一つの焦点は、イスラエルによるヨルダン川西岸への入植加速です。
イスラエル政府は8月18日、東エルサレムと西岸の大規模入植地を結ぶ「E1」計画で、1,234戸分の住宅建設に向けた入札を公示しました。入札期限は10月19日に設定されていますが、これは10月27日に予定される総選挙のわずか8日前です。
極右勢力との連携維持を選挙戦略の軸に据えるネタニヤフ政権にとって、これは選挙を意識した政治的メッセージと見る余地があります。
この計画に対しては、サウジアラビア、カタール、ヨルダン、UAE、インドネシア、パキスタンを含むイスラム諸国8カ国が8月21日、改めて反対を表明しました。英仏独をはじめとする欧州11カ国も同様の共同声明を出しています。米国務省の報道官も「米国はヨルダン川西岸の併合を支持していない」と述べていますが、計画そのものを止める具体的な行動には至っていません。
E1計画が実現すれば、東エルサレムと西岸南部の間でパレスチナ人の移動が事実上困難になり、将来のパレスチナ国家樹立を地理的に阻む形になります。国連安保理決議や国際司法裁判所の見解などでは、占領地におけるイスラエルの入植政策は国際法に反すると位置づけられていますが、イスラエル史上最も右寄りとされる現政権は、批判の声を受けながらも計画を進める構えを崩していません。
ガザの停戦協議も、決して順調とは言えません。国際危機グループク(ICG)がまとめた最新の分析によれば、停戦の「第2段階」への移行は長期にわたって停滞したままです。米シンクタンクJストリートの追跡報告によると、トランプ大統領が主導する「Board of Peace(和平理事会。国連安保理決議2803号が設立を歓迎した組織です)」の枠組みの下でも、履行をめぐる実質的な停滞が続いています。
7月30日から31日にかけて、エジプト、カタール、トルコ、米国の仲介でハマスの武装解除に向けた「ロードマップ」が合意され、和平理事会は自らの声明でこれを「歴史的な合意」と表現しました。
しかし、実際にイスラエル軍の撤収や武装解除がどこまで進んでいるかは、本稿執筆時点でもなお不透明です。7月だけでガザでは152人が死亡し、これは今年に入ってから最悪の月間死者数だったといいます。
合意文書に署名すること自体は、実は交渉の中で最も簡単な部分に属します。本当に難しいのは、その合意を実行に移す段階です。
指導者個人の政治的な立場、支持基盤の利害、選挙という制約──こうした要素が絡み合うと、合意した内容と実際に実行できる内容の間に、埋めがたい溝が生まれます。イスラエルの入植加速とガザの履行停滞には、まさにこの溝が表れています。
「交渉相手が署名した合意書の中身だけを見て安心するのではなく、その相手が国内でどれだけの実行余力を持っているかまで見極める」
これも、私たち調停官が現場で常に問われる仕事の一つです。
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