イランは「ホルムズ海峡を人質」、トランプ米は「軍事力で資金源を断つ」。双方が誇示する“最善の代替案”は有効なのか?

 

■ウクライナの外側でも静かに広がる「ロシアの圧力」

交渉の世界には、要求を一度に出さず少しずつ積み上げていく手法がありますが、私にはロシアの安全保障をめぐる主張が、まさにその手法をなぞっているように見えます。だとすれば、ウクライナでどこかの町や州の帰属が決まったとしても、ロシアが安全保障上の脅威と呼ぶものは何一つ解決しません。

停戦と和平は、似ているようでまったく違います。銃声を止めることはできても、相手が抱えている根本的な不安を解消できなければ、それは第一段階が終わっただけのことです。

バルト三国の外相らは9月上旬、非公式にこの点への懸念を米欧の当局者に伝えたと報じられています。自分たちの頭越しに、ウクライナの領土問題だけが取引され、NATOの東方でのプレゼンスという本丸が置き去りにされることを、最も恐れているのがこの3か国です。

交渉の世界でよく言われることですが、当事者の一方がこれで最終合意だと考え、もう一方がまだ次の段階があると考えている限り、その合意は長続きしません。

ウクライナの外側でも、ロシアの圧力は静かに広がっています。

ドイツでは9月1日、政府が8月にライプツィヒ・ハレ空港で起きた事件についてロシアの関与を公式に認定しました。問題の無人機には爆発物と起爆装置が搭載されていたとされ、幸い起爆には至らずに済みましたが、空港は一時閉鎖されています。ドイツ政府はこれを受けて、対抗措置としてボンにあるロシアの総領事館と文化施設の閉鎖を決めています。

英国際戦略研究所(IISS)は、2024年8月から2026年2月までに欧州13か国で144件の関連事案を分析し、ロシアによる組織的な無人機活動である可能性が高いとの評価を示しています。ドイツだけで58件を数えるとのことですが、144件すべてがロシア政府の指示によるものだと断定されているわけではありません。

正直に言うと、私はこの「断定できない」というところに、今回の一連の出来事の本質があると感じています。ロシア側は関与を否定していますが、安全保障の専門家の間では、正面からの軍事衝突には至らない無人機やサイバー攻撃、破壊工作を通じた圧力だという見方が広がっています。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長とNATOのルッテ事務総長は9月2日に共同記者会見を開き、ロシアの無謀な行動に迅速かつ効果的に対処できるよう備えを強化しなければならないと訴えました。

「正面切った攻撃だと名指しできないまま、疑いだけを積み重ねて相手を疲弊させる」

これは私が交渉の現場で何度も味わってきた揺さぶりの感覚と同じです。

並行して、ウクライナはロシアの民間航空にも揺さぶりをかけています。

ウクライナのシビハ外相は9月2日、国際民間航空機関にロシアの領空は安全ではないと正式に通知しました。実際にトルコやドバイの航空会社の一部で、モスクワ便の欠航や引き返しが起きています。

ゼレンスキー大統領は、「ロシアの空が安全だった時代は終わった」と述べており、民間機を巻き込むリスクを承知のうえで、経済的な打撃を狙う姿勢をにじませています。

興味深いのは、こうした圧力の応酬の最中に、プーチン大統領が北極海航路の通年航行という将来構想を語っていることです。プーチン大統領は9月3日、事実上封鎖が続くホルムズ海峡を念頭に置きながら、北極海航路の輸送量を2030年までに拡大させる方針を掲げました。

私は、こうした発言を単なる経済政策の説明としては受け取っていません。苦境にあることを認めず、次の選択肢を提示することで、相手に「まだ手は残っている」と思わせる、交渉ではこうした振る舞いが相手の認識を変えることがあります。

プーチン大統領は同じ9月2日、極東の造船所を訪れ、北極圏のLNG事業向けの砕氷タンカーも視察しています。ロシアは砕氷船の保有数で米国を上回っており、日本企業・政府系機関も10パーセントの権益を持つこの事業は、米欧の制裁対象になっている点で、日本にとっても他人事ではありません。

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