イランは「ホルムズ海峡を人質」、トランプ米は「軍事力で資金源を断つ」。双方が誇示する“最善の代替案”は有効なのか?

 

【2.タンカー戦争-ホルムズ海峡で交錯する二つの発表】

次に、ホルムズ海峡です。

9月8日、米中央軍はオマーン湾とカーグ島付近で、イラン革命防衛隊系の原油タンカー5隻を攻撃し、航行不能にしたと発表しました。破壊されたのはM/Tカビズ、シャルミナール、ホライズン1、デリヤの4隻に、もう1隻を加えた計5隻とされ、これは開戦以来最大規模のタンカー攻撃です。

米側は、イランが2度にわたり米海軍艦船を弾道ミサイルで標的にしたことへの報復だと説明しています。

そもそもの発端をたどると、トランプ大統領は8月16日に韓国との合同軍事演習の大幅な縮小を打ち出し、8月19日には新たな対イラン制裁の計画を公表、その5日後にはイラン政権を支える経済的な生命線を断ち切ると称する経済的追放作戦を発表していました。

わずか数週間の間に、圧力をかける対象と手段を次々に切り替えていくという、この予測しづらさ自体が交渉戦略の一部になっているというのが私の見立てです。最初に大きな数字や強い言葉を打ち出し、その後の話し合いの基準点そのものをずらしてしまう、そんなやり口に近いものを感じます。

これに対しイラン革命防衛隊は、「米艦船2隻とタンカー8隻を攻撃した」、「ヨルダンの米軍基地に弾道ミサイルを撃った」などと発表しています。

イランの国家安全保障を統括する最高安全保障委員会のレザイ事務局長は9月6日、ホルムズ海峡周辺に制限区域を設ける方針を表明し、無断で入域する船舶を制裁対象に加えると警告しました。この制限区域には、米軍がイランに対して敷いている海上封鎖の区域も含まれるとみられています。

ここで一つ、注意が必要です。イラン側のこうした発表は、船舶保険会社や旗国、海事当局のいずれからも裏付けが取れていません。つまり双方が、これだけの戦果を上げたと主張し合っているものの、その多くは検証不能な自己申告にとどまっているのです。

私はこれを、交渉の場でしばしば見かける情報の非対称性が、そのまま戦場に持ち込まれた形だと捉えています。「事実そのものよりも、事実らしく見える発表を積み重ねることで相手より優位に立とうとする」構図です。

数字で確認できることも、いくつかあります。ホルムズ海峡を通過した貨物船は、9月8日時点で6隻にとどまり、前日の9隻からさらに減少し、過去10日間の平均である12隻を大きく下回りました。

湾岸の石油会社関係者はロイター通信の取材に対し、開戦前と比べて戦争リスク保険料が急騰し、1航海あたりの輸送コストが1,000万ドルから2,000万ドル規模に達していると証言しています。

一方で、イラン側は、オマーンとの間で船舶の通航ルートについて合意に近づいており、近く署名する見通しだと主張しています。ただし、これはイラン側の一方的な発言であり、正式な合意はまだ発表されていません。

「交渉が決裂したときに何を最善の代替案とするか」

これは当事者どうしの力関係を測るときの基本です。

イランにとってのこの代替案は、海峡そのものを人質に取ることです。米国にとっての代替案は、軍事的な圧力によってイランの資金源を断つことです。双方とも、自らの代替案を誇示することに躍起になっていますが、誇示された数字の多くが検証不能だという点に、この対立の危うさがあります。

この消耗戦は、米軍自身の駐留態勢にも影響を及ぼし始めています。

バーレーンの海軍施設は対岸のイランからわずか250キロメートルの距離にあり、イラン製の自爆型無人機シャヘド131の航続距離は最大900キロメートルとされるため、常に射程内にあります。

米シンクタンクCSISの分析によれば、司令部機能を前線から後退させ、一部の部隊をイスラエルやエジプトに移す案が米政府内で浮上しているとのことです。

1発400万ドルの地対空誘導弾パトリオットで、価格が数百分の1にすぎない無人機を撃ち落とすのは、費用の面から見ても割に合いません。

この記事の著者・島田久仁彦さんの新創刊メルマガ

初月無料で読む

print

  • イランは「ホルムズ海峡を人質」、トランプ米は「軍事力で資金源を断つ」。双方が誇示する“最善の代替案”は有効なのか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け