次期大統領の座は確実か。ヒラリーが見せた「完全勝利」の瞬間

 

もしかしたら「シナリオ」があったのかもしれませんが、ヒラリーの「味方」である民主党の委員たち(例えばエリヤ・カミングス議員など)が「共和党の委員の物言いに食って掛かる」というシーンもありましたが、そのような「自分をアシストするような感情論」ですら、ヒラリーは一段高いところから冷静な姿勢で「見守って」いたのです。

その上で、ヒラリーは「スチーブンス大使以下の死に関しては自分に責任がある」とハッキリ述べるとともに、「自分は、この一件に関しては、この場にいる全部の人間を合計したよりもずっと長い時間、眠れない夜を過ごした」という言い方で、個人的な後悔の念と反省の深さを示したのでした。

その一方で、低姿勢だけでは済まないのも事実であり、「上を目指す」以上は「敵に対する反撃」も避けられません。そこでヒラリーは、「アメリカの外交官の生命が奪われた同じような事件としては、レーガン政権下のベイルートの事件、クリントン政権下でのアフリカでの大使館連続爆破事件などがあった」として「こうした事件の際には、真相究明と再発防止のために議会では超党派的な活動がされた」として、暗にこの「党利党略による自分への告発」を批判することも忘れませんでした。

威風堂々というよりも、そこには自分は政権を担うのだという鉄の意志のようなものが感じられました。CNNで、これまではヒラリーに決して甘くはなかったジャーナリストのカール・バーンスタイン(ウォーターゲート暴露で有名)が「ヒラリーのプレジデンシー(大統領になった場合の治世の姿勢)はこんな感じだということを予感させた」という言い方で、彼女が11時間にわたって見せた「カリスマ」のことを形容していましたが、私も全く同感だと思いました。

丸1日をかけた公聴会が終わった時には、11時間にわたって「コワモテ」の表情を崩さずにヒラリーを追求し続けたトレイ・ガウディ委員長(共和、サウスカロライナ4区)に対してヒラリーは「にこやかに」握手を求め、同委員長も表情を和らげてそれに応じていました。ヒラリー勝利」の瞬間でした。

普通、議会が国政調査権を発動して、その調査のために証人喚問を行うという場合、特にその証人が何らかの疑惑を持たれている場合は、喚問におけるやり取りは「防戦的」になります。当たり前のことですが、今回のヒラリーは、自身へと向けられた嫌疑を「晴らす」だけでなく、その喚問の場を「自身の政治的勝利の場」へと変えてしまったのです。これは大変なことです。

勿論、反対派は今でも怒っています。FOXニュースのメージン・ケリーは、公聴会の直後に自分の番組に事件で犠牲になった職員の母親を呼んで「あの女は嘘つきだ」と言わせて、相変わらずの「ヒラリー叩き」をしていましたが、これはあくまで少数派であり、中道から左の世論はほぼ「ヒラリー復権」というイメージで固まったのではないかと思います。

image by: Alan Freed / Shutterstock.com

 

冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋

著者/冷泉彰彦
東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは毎月第1~第4火曜日配信。
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