元旅行誌編集長が明かす、「現地取材していない記事」の見分け方

 

ただ「では、お前は現地取材に行かずに原稿を書いたことはないのか」と聞かれたら、もちろんある、と答えなければいけない。

むしろ、そっちの方が圧倒的に多い。 なにしろ不況で経費節減が叫ばれているから、編集部もなかなか現地へ取材に行けとは言ってくれないのだ。

これについて、ある知人がこう言っていた。

「旅行雑誌は全部の施設に実際に行って記事を書いているんだと思ったよ。取材に行かないで書くなんて詐欺じゃないの!」

地元周辺の施設だけを紹介するタウン誌ならいざ知らず、日本中の施設を取り上げる旅行雑誌の場合、全部に取材に出かけていたら、時間もお金も到底間に合わない。

幸い僕は、プライベートを含めて日々全国を回っているので、現地の雰囲気や気候、風景までを確実に見て知っている。 電話取材だけでも相当に精度が高い原稿を書くことができる。 よって、お仕事をいただけているわけだ。

ところが、行ったこともない場所の記事を電話と資料だけで書け、という編集部もある。 良心的なライターはこういう依頼を断る。 断れない駆け出しのライターなどに仕事が押し付けられる。 結果、曖昧な表現で逃げを打った原稿が氾濫することになるわけだ。

お風呂、つまり温泉の紹介記事はチト厄介だ。 よほどの温泉好きでない限り、浴感を書いても理解されにくいからである。

本メルマガは、温泉が好きな人が読むものだと思って解説するが、一般的に「しっとり感」と「すべすべ感」の違いが明確にわかる“男性”というのはまずいないといってもいい。 女性なら誰でもわかるそうだが……。

食塩泉の特徴である「湯上がりのベタベタ感」という表現も、わからない人にとってはあまり心地よい響きがないだろう。

さらに、泉質名を書かれても、それは単なる記号でしかないに違いない。

お風呂紹介の常套句としては「お風呂はこぢんまりとした内湯のみだが、肌触りの優しい弱アルカリ性の湯がなみなみとあふれている」などというものがある。 はっきり言って、これでは読者は何もわからない

雑誌記事には文字数の制約があるので一概に言えないが、同じお風呂でも「お風呂は5人も入ればいっぱいになるこぢんまりとしたものだが、浴槽は檜造りで肌に温もりを感じさせてくれる。 無色透明無味無臭の湯は、ぬるっとした感触で、湯舟に身を沈めていると全身に細かい泡がつく」と書いてあれば、かなり具体的でわかりやすいだろう。

露天風呂の場合は、湯舟から見える風景がキチンと書かれているか、がキモ。

何も書いていない場合は、目隠しがあってほとんど眺望がないか、特筆すべき眺めではない場合が多い。

庭園露天であれば庭木などの草花、展望露天であれば眼下に何が見えるのか、あるいは山を遠望するのか、その山の名前や形はどんなものなのか、といったことを書くのがプロのライターである。

仮に取材に行ったときにあいにくの雨模様だったとしても、キチンと宿の人に取材をすれば「晴れていれば○○山が目の前にそびえ、遠く××連峰を望むことができる」ということが書けるわけだ。

それを書いていないのは、やはり取材が甘いか、実際に訪ねていないということを疑う余地がある。 ただし、文章量の制約でどうしても書けないこともあるので、記事全体のボリュームを見て考えていただければと思う。

image by: Shutterstock

 

『温泉失格』著者がホンネを明かす~飯塚玲児の“一湯”両断!』より一部抜粋

著者/飯塚玲児
温泉業界にはびこる「源泉かけ流し偏重主義」に疑問を投げかけた『温泉失格』の著者が、旅業界の裏話や温泉にまつわる問題点、本当に信用していい名湯名宿ガイド、プロならではの旅行術などを大公開!
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