なぜ最近の本屋はつまらない本ばかり置くようになってしまったのか?

なぜ最近の本屋はつまらない本ばかり置くようになってしまったのか?
 

今の出版業界の問題点

今回の出版の件で良く分かったのですが、日本の出版業界が抱える一番の問題は、再販制度と、それに大きく依存したビジネスモデルを持つ出版社にあります。

再販制度とは、一言で言えば「売れ残りの買い取り保証付きの販売業務委託契約」です。書店は、取次から卸値で本を仕入れて小売をしますが、万が一売れなかった場合には、返品できるため、在庫リスクが軽減されるというメリットがあります。

一方の出版社にとっては、何冊売れるか分からない本に関しても、とりあえず取次が仕入れて書店に押し込んでくれれば、その時点での「売り上げ」(会計上の厳密な定義で言えば、返済リスクのある前払金)が立って現金が手にはいるというメリットがあります。
つまり、ファイナンス面から見れば、出版社が本の出版時に必要とする運転資金を小売書店が提供するという形になっているのです。

本が順当に売れている時には、返品も少ないので何の問題もありませんが、本があまり売れず、返品が多い時には、出版社は返品された本を買い取るのに必要な資金をどこかから調達しなければなりません。

そこで多くの出版社が取る手法が、再販制度を利用したファイナンスです。返品される書籍よりも多くの書籍を再販制度を使って市場に押し込むことができれば、トータルではプラスになるため、返品された本を買い取る資金が不要になるのです。
なんだか錬金術のような話ですが、実は非常に危ない自転車操業で、一度でも十分に書籍を押し込むことができなければ、資金がショートして倒産してしまうリスクをはらんでいます。

そんなビジネスモデルに頼っている出版社は、どうしても確実に十分な書籍が押し込めるように、数で勝負をするようになります。

たとえば、卸値1000円の本を初版で五千部刷れば、取次に押し込んだ時に500万円の現金を得ることができます。そんな書籍が20冊あれば、1億円の現金を得ることができるのです。
何ヶ月後に、それらの書籍の半分が戻って来たとしても(返本に応じる費用は5000万円)、その時に同時に、1億円分の(別の)書籍を取次に押し込むことが出来れば、差し引き5000万円の現金が生まれ、それで編集者の給料や、製本・印刷コストを賄うことが出来れば、ビジネスとしてはまわってしまうのです。

しかし、こんなビジネスモデルでは、編集者も一つ一つの書籍に時間を割くことなど出来ず、中途半端な作品ばかりが書店に並ぶことになるのです。

乙丸氏の素晴らしいところは、自分をあえて出版社の外に置き、著作者と印税を分け合うことにより、一つ一つの作品に時間をかけて良いものを作ろうというインセンティブ構造を作りだしたところにあるのです。

image by: Shutterstock.com

 

『週刊 Life is beautiful』より一部抜粋

著者/中島聡(ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア)
マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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