中国が南シナ海上空に飛ばした「偵察用の飛行船」の軍事的意義

 

これが無人機・飛行船のメリットだ

:西さんは、当メルマガで2011年から、衛星をしのぐ高高度滞空型無人機の時代がくると予見していましたね。なぜ、衛星でなく無人機や無人飛行船なのですか?

西:「そもそも偵察・監視(早期警戒)・通信などは、利用できる情報の価値が大きければそれでよいのであって、人工衛星、飛行機、飛行船、気球、凧など、どんなハードウェアを使ってもまいません」

「もちろん係留気球や凧は、高く上がれず見通しがききませんから、戦国時代ならともかく、現代では使い物になりません。飛行機も、特別に開発された航空機の場合でも長期間滞空できる技術的な限界高度は12万フィート(37キロ)とされてきました。さきほど申し上げたように、高度20~100キロの大気上層は飛行機・人工衛星ともに使いにくい不毛の空間ですから、これまでは不毛の空間より高いところに打ち上げた人工衛星を使ってきたわけです」

「しかし、さまざまな技術の進歩によって、最新の太陽電池・燃料電池・小型センサー・構造材などを使えば、高度20キロ以上の成層圏中層域に長期間とどまることができる人機の実現可能性が開けてきました。そこでアメリカやイギリスが開発にしのぎを削るようになりました。それを見て中国も後追いを始めたのです」

「高高度滞空型無人機の第1のメリットは、特定地域の上空に長期とどまることができることです。この能力があるのは静止衛星けです。低軌道衛星では1日のうち特定地域の上空を通過する回数は多くて14回(1時間40分おき)、少なければ1回で、特定の目標が視野に入っている時間は毎回15分以下しかありません。無人機はこれをカバーできます」

「第2のメリットは、高度20キロ以上の高高度に滞空するため、情報収集やデータ中継の視野(通信範囲)が広いことです。たとえば航空機の技術的な限界高度37キロからは、周囲690キロの地平線を見通すことができます。日本海上空から北朝鮮全土を監視して、弾道ミサイルの発射を探知することもできるのです」

「第3のメリットは、人工衛星と比べてはるか地表近くに滞空するため、カメラの解像度も、微弱電波の受信能力も格段に向上することです。たとえば、無人機が低軌道周回衛星の10~20分の1の高度にいると、同じカメラでも解像度が10~20倍に、同じアンテナでも受信能力が100~400倍に向上します。これは、高い位置にある衛星より視野が狭いとうデメリットをはるかに補って余りあるメリットです」

「第4のメリットは、打ち上げロケットも、加速度や放射線に耐えるセンサーも不要で、人工衛星よりもはるかに安価なことです。安ければ数多く製造して飛ばすことができ、撃ち落とすための長距離地対空ミサイルのほうが高くつく、という話になります。すると敵国からの攻撃を抑止する効果も生じます」

「第5のメリットは、気球・飛行船・ソーラー飛行機のような低速の航空機はレーダーに映りにくいこと。地上から目で見つけることも、エンジンの排熱を探知することも、きわめて難しく、電波を発信していない限り、高いステルス性があります」

「以上のようなメリットを考えると、高高度無人機より偵察衛星のほうが優れていることを見つけるほうが難しいのです。偵察衛星のメリットは平時に外国上空を通過する国際法上の権利だけ、ということになるかもしれません。衛星が無人機に置き換わっていくことは必然といえるでしょう」

アエロバイロメント社のGlobal Observer(AVIA.PROサイト)

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ボーイング社のPhantom Eye(同)

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●英キネティック社のZephyr(同)

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