中国が南シナ海上空に飛ばした「偵察用の飛行船」の軍事的意義

 

飛行船による中国の早期警戒システム

:毎日新聞は「中国人民解放軍が成層圏に飛行船を飛ばし、ミサイルを早期に探知するシステムの開発を進めていることがわかった」と書いていますが、西さんは当メルマガ2015年10月19日特別号のテクノ・アイで、「成層圏を飛ぶ中国の飛行船の軍事的意義」についてレポートしていますね。

西:「15年10月13日、中国の飛行船『圓夢号が内モンゴル自治区シリンホト市の拠点から離陸し、高度20キロまで上昇、データ中継と地上の観測をおこないました。操縦できる飛行船が高度20キロに達したのは、2005年にアメリカのサウスウエスト研究所と米陸軍が飛行船ハイセンティネル号を浮揚させて以来、10年ぶりのことでした」

「特定地域の上空20キロ以上に数日間とどまり、データ中継や地上の観測・偵察を継続できる高高度滞空型無人機、高価で脆弱な衛星の機能を代替する潜在力があり、米英の無人機メーカーが試験飛行を繰り返してきました。高度20~100キロの大気上層は、英語で『ニア・スペース』、中国語で『近空間』といいます。ジェット機が飛ぶには空気が薄すぎ、人工衛星が周回するには空気抵抗が大きすぎる層で、これまでほとんど利用されてきませんでした。その層に無人機でなく無人飛行船を飛ばそうという中国の動きは、各国の注目を集めました」

圓夢号は、広告をつけて飛ぶのを見かける一般的な飛行船より大きく、外皮部分の容積1万8000立方メートル、全長75メートル、高22メートル。外皮上側に柔軟に形状を変える太陽電池パネルつけ、プロペラとペイロード(搭載機器)の電源とすることで、3か月以上の滞空時間5トン以上の搭載量を実現しました。北京の民間企業・南江空天科技、北京航空航天大学、内モンゴル自治区シリンゴル盟(シリンホト市を含む行政区)が共同開発したもので、中国政府科学技術部が所管する『科技日報』(15年10月14日付け)は圓夢号を『軍民両用新型ニアスペース・プラットフォーム』と表現しています」

「南江空天科技は、成層圏飛行船の用途として次の6項目を挙げています」

1)大気・水質汚染の観測 
2)都市の観測による交通情報収集、違法建築摘発、突発事件の情報収集 
3)陸地から最大500キロ沖の船舶に対する第4世代移動通信ステムの提供 
4)ブロードバンドテレビ放送 
5)レーダーによる気象観測と天気予報 
6)赤外線センサーによる林野火災の監視と消火支援

西:「3)で500キロというのは、高度20キロの飛行船から平線までの距離です。たとえば浙江省・福建省沿岸~沖縄県石垣島が約500キロ。上海から九州・沖縄に向けて500キロ進むと中間点を超えます。つまり、中国は高高度滞空型飛行船の開発によって、自国の地対空ミサイルの傘中から500キロ以上沖の海上を精密に監視する手段を手にしたわけです。この軍事的な意義を否定する世界の専門家はいません」

「毎日新聞の記事は、圓夢号の延長上で、さらに大型で高性能な高高度滞空型飛行船を開発し、早期ミサイル警戒システムを構築するという構想を伝えています。もちろん圓夢号が浮かんだときからわかっていた構想ですね」

中国の新型近宇宙飛行船、軍民共用を実現 (人民網日本語版 2015年10月16日) 

科学发展 – “圆梦号” 临近空间飞艇在锡林郭勒盟成功首飞(YouTube)(科学発展 – “圓夢号”臨近空間飛艇在 錫林郭勒≪シリンゴル≫盟成功首飛) 

unnamedヘリウムガスを充填中の「圓夢号」(上記の映像)

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