日本製の車両に問題は無かったか?台湾脱線事故を識者が徹底検証

 

報道によれば、事故直前に、運転士がブレーキの異常を訴えていたようですが、もしかしたらこのVVVFインバータ制御車の設計を理解しておらず、ブレーキが効かないので、何度も停車して余計に空気圧を下げてしまったのかもしれません。その一方で、このままでは安全装置がウルサイので切ってしまったという可能性があるように思います。

台湾・脱線事故 運転士「ATP切った」と証言(産経新聞)

この点に関していえば、車両が日本製であるにも関わらず、保安装置が欧州方式であることで何か問題が起きた可能性もゼロではありません。

そうではあるのですが、回生ブレーキが効くのであればこんな事故は起きません。ところで、回生ブレーキというのは架線に電気を戻してやるのですが、その電気に行き場がないとブレーキは効かないとう問題があります。電気の行き場というのは、例えば、近くに電車がいてパワーオンになっているとか、変電所経由で近くの都市に電力を戻しているという場合です。

仮に、この種の電車が走行している区間が「電車の運行密度が低く」かつ「近くに市街地がない」ので、ブレーキが生み出した電力の行き場がない場合は、対策を講じておかねばなりません。対策というのは、そうした場合に備えて「回生電力吸収装置」というのがあるのですが、これを設置しておかなくてはなりません。

この装置は大きな箱で、その中には抵抗器が詰まっており、余分な電力を熱に変えて吸収するようになっています。つまり、VVVFインバータ制御車の登場する前の、昔の電車の床下についていた「電力を熱に変えて吸収する」機構が、動かない箱になったようなものです。

もしもその装置が設置されていなくて、近くの電車や市街地が電力を必要としていなければ、回生ブレーキは効きません。もしかしたら、不幸なことにそうした現象が重なったのかもしれません。乗客の話としては、急に加速したという証言がありますが、セクションが変わった途端に回生制動が消える(失効)して急にブレーキが抜けたのが急加速のように感じられた可能性もあります。

ところで、日本の類似車両の中でも、JR東日本の「スーパーあずさ」に使われている最新のE353系とか、「あずさ」のE257系などは、電力の行き場のない場合は、自車内で電力吸収ができるような設計になっています。閑散線区で、周囲に市街地などのない区間を走る場合、万が一にも必要なブレーキ力が「足りない」という現象を防止するもので、「改正・発電併用式」というものです。私の調べた範囲では、今回事故を起こしたTEMU2000型の場合は、この「併用式にはなっていなかったようです。

ちなみに、このVVVFインバータとか、回生ブレーキというのは、現在の日本の新幹線や在来線、私鉄、地下鉄などの電車ではほぼ100%実用化されていて、特に難しい技術ではありません。日本だけの専売ではなく、欧米の鉄道車両メーカーでは全て採用されている技術です。ただ、使用条件が揃っていないと危険だということです。

この線区(宜蘭線)というのは全通したのは1924年ですが、電化は2003年と比較的新しい中で、十分に考慮した設計になっていたのか、多少疑いが残るのです。事故現場についていえば、宜蘭市の郊外にあたる場所ですから、「近くに電力需要はある」はずです。ですが、変電所がキチンと設置されていないと、セクションによっては、ブレーキが作った余分な電力の行き場がなくなってブレーキが効かなくなる可能性があります。

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