問題は「ひきこもり」ではない。殺意を形成する心のケアの必要性

 

結果的に引きこもっても、それは事後、冬眠期間だったと振り返られれば、よい経験にもなる。この過程で、世の中を「くそったれ」と罵ってもよいのだが、他者に危害を加えるメンタリティになるのは、やはり社会悪になるので、避けたい。問題はここである。

引きこもりではなく、社会に対し危害を加えようとする心のケアが現在問われているのである。川崎の事件での加害者の心に宿した「殺す」という決意、農水次官事件での、「周囲に危害を加えるのではないか」に至る周囲の暴力を仄めかす発言と、殺害という手段を選ぶ父親の心の閉そく感、すべてが不健全な形に帰結してしまっている悲劇を注視する必要がある。

不幸な状態を抜け出すために、人に危害を加えるメンタリティを形成するメカニズムに迫る必要があるのだが、これは付け刃のような政策では対応できない。自殺対策でも、無差別殺人でも、「人間の命」と「公共性の在り方」を社会科学の視点から語れる場を作るべきであろう。

それは一方的に誰かが教えるのではなく、話し合って気づき合うポリフォニー的対話ではないだろうか。殺意のココロをほぐすために真剣に考える必要がある。それを実現するには、自由に語れる環境が必要だ。大きな社会の絵の中で、引きこもりも受け入れつつ、命を守る守られることに重点を置く視点こそが悲劇を繰り返さないための第一歩だと思う。

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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