ニューヨーカーにとって深刻な「書店の消滅」その意外な理由

 

渡米当初、ダウンタウンのBORDERSという大型書店で、輸入版の日本の書籍をテーブルで読んでいた時のこと。斜め前に座っていた、金髪の同世代の白人女性がいきなり、「Is it Vertical writing?」と聞いてきました。まったく聞き取れず「え」という顔の僕に、ニコニコした顔で、イズイバッティカラン?ともう1回話しかけてきます。語尾が尻上がりに上がっているので、どうやら、疑問形らしい。 でも、何を聞かれているのかわからない。彼女は、ゆっくりと、ジェスチャー付きで、バーティカル?と聞いてきました。「それ、縦書き?」と。日本語の書籍は縦書きです。すべてが横書きのアメリカ人には珍しく感じたらしい。「あぁ…そう」と答えると同時に、彼女は、僕の真横に移動してきました。「読みにくくないの?」と笑顔で。

最初は、寄付金でも勧誘されるのかなと警戒したのですが、そこからエイミーよ、と自己紹介され、ちょっとした世間話が始まりました。なんだよ、この展開、映画じゃん!と思いました。書店。女の方から話しかける。相当、可愛い。『恋に落ちて』じゃん!と(古いな)。聞くとカナダ人の彼女は今、臨床心理の勉強をするため、ニューヨークに滞在しているとのこと。で、10分くらい盛り上がりました。

「あ、そろそろバスの時間、楽しかったわ、あなたの夢が叶うこと祈ってるね、じゃあね!」と握手をして去っていきました……え、連絡先は?こっちの夢まで聞いといて?え。それだけ?…「じゃあ、気をつけて…」と手を振って見送りました。なんなんだよ、この展開。失望とちょっとした苛立ちが顔に出ていたのか、斜め向かいの黒人のおじさんがニヤニヤこっちを見て「次、頑張れ」と親指立ててきました。余計なお世話だこのやろう。

そう、彼らにとってみれば、空いている時間に、暇つぶしで、そのへんの目に入った人に話しかけることは、特別な意味を持ちません。こっちが勝手に、ドキドキしていただけ。宗教の勧誘じゃなかっただけラッキーでした。もちろん、そこから、こっちが魅力的であれば、そういった対象になりうることはあるとは思います。ただ、日本ほど、声がけに特別な下心はない。

確かに、この街では書店は、社交の場所でした。そして、それがなくなった。もちろん、理由は説明するまでもなく、電子書籍、そしてネット通販が原因です。で、そう言う僕自身も、今はお買い物はほとんどネットで済ませます。 数年前、自宅の近所に、AMAZONの書店が出来ました。マンハッタンでは2店目。エンパイア・ステート・ビル北側に、実際の書籍が置いてある「amazon books」です。結構な売り場面積の大型店です。しかもネット上で四つ星以上の星がついた作品を全面に出す売り方なので、とっても便利。もちろん、カフェも、テーブルも、椅子も常設してあります。そして、壁には大きく「紙の本はなくならない!」とキャッチコピーが。(いや、なくそうとした張本人だけどな!と心でつっこみつつ)。

そう、紙の本はなくならない。 大型書店は確かに減りましたが、いまだ人気根強い街の本屋さんは、健在です。むしろ、そっちの方が人間ドラマは多いかも。いまだニューヨーカーにとっての大切な憩いの場所、書店を何件か挙げときます。観光でこられる際は、ちょっと顔を出して見てください。
Housing Works Bookstore Café 住所(エリア):126 Crosby St(SoHo)
McNally Jackson 住所(エリア):52 Prince St(Nolita)
Bluestockings 住所(エリア):172 Allen St(Lower East Side)
Books of Wonder 住所(エリア):18 W 18th St(Flatiron)

image by: Shutterstock.com

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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