ちなみに、このNight Modeは、GoogleがPixel3で導入したNight Sightへのレスポンスです。
iPhoneはこれまで常に、製品の完成度においてはAndroidの一歩先を進んでいましたが、Pixel3のNight SightでGoogleは、iPhoneよりも明らかに優れた能力をAndroid端末に持たせることに成功しました。
これはiPhoneの開発陣にとっては、大きなショックだったと思います。これほど誰にでも分かりやすい機能を、それもAppleが最も力を入れていたカメラ機能で、Googleが先にリリースしてしまったというのは、彼らにとっては屈辱だったと思います。
ネットにはすでに、iPhoneのNight ModeとPixelのNight Sightの比較記事がいくつか出ていますが(参照:「Night Mode: iPhone 11 Pro Max vs Pixel 3a XL!」)、どちらも似たような技術を使っており、違いはごくわずかです。
どちらも既に、肉眼では捉えきれないものを撮影できるレベルになっており、ソフトウェアの力がいかに重要かを良く示しています。
当然ですが、コンパクト・カメラの能力は完全に凌駕しており、高級一眼カメラが唯一優れているのはレンズとセンサーの物理的な大きさのみ、というレベルに至っていると思います。ソフトウェアに弱い通常のカメラメーカーでは全く対抗できない領域にまで進化してしまったと言えます。
私は10年ほど前に、日本の某カメラメーカーの技術者に相談されたことがありますが、その時に「ソフトウェアで勝負をしようとしても絶対に負けるので、iPhoneのアクセサリとしてレンズとセンサーだけを搭載したカメラを作り、全ての処理はiPhone側でした方が良い」と助言をしましたが、それどころの話ではなくなってしまいました。やはり、ソフトウェアが強い会社がハードウェアまで作り始めると手がつけられません。
そう考えるとGoogleによるHTCの携帯電話機部門の買収は大成功だったと言えます(MicrosoftのNokiaの携帯電話機部門の買収とは対照的です)。Googleのスマートフォン市場でのシェアはまだまだ小さいですが(単体では1%にも届かないようです)、今後はマーケットシェアを伸ばし、Apple(2019Q2現在10%)、Samsung(同22%)、Huawei(同16%)、Xiaomi(同9%)に並ぶ5強には食い込んでくる可能性は大きいと私は見ています(数字は、「Global Smartphone Market Share: By Quarter」より)。
ちなみに、携帯電話業界で何が起こったかを20年近くも間近で見ているからこそ、同じようなことが自動車業界でも起こるだろうと私は確信しているのです。自動車にとってのソフトウェアがこれからますます重要になって行くことが明確な今、まともなソフトウェア技術者を社内で育てることが急務になっています。
しかし、残念ながら既存の自動車メーカーの経営陣のほとんどは、相変わらずソフトウェアの重要性を理解せず、ソフトウェアに関しては下請け任せのままで良いと思っています(私が経営していたUIEvolution/Xevoも商売をしていました)。私が2年前に「Xevo はそろそろ売り時だ」と感じたのはそれが理由です。
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※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年10月1日号の一部抜粋です。