人の記憶に近いのは「上書き保存」か「名前を付けて保存」か?

 

そもそも人間の記憶は上書き保存?

よくよく考えれば、人間の記憶も「上書き保存」式のような気もするのである。過去を大胆に再編、改ざんし、図々しくも自分に都合のいいように美化した思い出のみを記憶として蓄積して行く。これは決して嘘をついている訳ではない。そこに悪意はないからだ。

おそらくこうした記憶の美化は精神の均衡を保つためのある種の防御機能のようなものなのであろう。たまに昔のことをふと思い出した時など、涙を流していても幸せそうに見えたりするのはこの機能が作用してのことなのかもしれない。実際、とてものこと美化できないような惨事・惨状を経験した人がその精神に何らかの異常を来すことは珍しいことではない。

あるいは逆に、人は記憶を美化するのではなくて、美化した(あるいは美化できた)ものだけを記憶するのかもしれない。精神的ショックに起因する健忘症はその傍証とは言えないか。

人をその人たらしめているのは記憶であると言う。今仮に自分にとってのみ優しい記憶だけで人はできていると言い換えたとしたらどうだろう。人とは何と図々しく、何と哀しい存在か。

そしてまた自分も自分であるために、昨日までがそうであったように今日も明日も明後日もこの「上書き保存」をし続けるのである。嘆息しつつも記憶に(あるいは記憶から)護ってもらうために続けるのである。

どうやら人の記憶においては「名前を付けて保存」的な多世界解釈は許されないみたいである。皮肉なこととも思えるが、如何にも「人生」らしくてちょっと面白い。

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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