日本の会社員が雇用の安定と引き換えに選んだ「ブラック労働」という悪夢

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新型コロナの感染拡大が止まらない日本ですが、世界中で多くのリストラが起きている状況に比べると雇用は安定しているように見えます。しかし、メルマガ『ブラック企業アナリスト 新田 龍のブラック事件簿』の著者で働き方改革コンサルタントの新田龍さんは、日本のサラリーマンが「雇用の安定」と引き換えに「ブラックな労働環境」から逃れられなくなっていると指摘。その現状について、数字を根拠に示しています。

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日本人は自ら「ブラックな労働環境」を望んでしまっている

新型コロナウイルスが原因で解雇や雇い止めされた人の累計は、先日10万人を超えたと発表された。5月7日時点までの累積値として、解雇等見込み労働者数は10万3,000人、雇用調整の可能性がある事業所は12万8,361カ所となっている。2020年8月に5万人を超えてから、わずか半年で倍増した形だ。しかもこの人数は労働局が把握している分のみであり、実際の人数はもっと多いとの指摘もある。

厚生労働省「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について(5月7日現在集計分)」

しかし、一見膨大に見えるこの数字も、実は諸外国と比較すればかなり安定している方だということはあまり知られていない。実際、2020年初頭に新型コロナウイルスの存在が社会問題となって以降、2021年2月までの各国における完全失業率推移を見てみると、欧米諸国が軒並み失業率5%以上、スペインに至っては16%といった数字を記録している一方で、日本はおおむね2%台を維持しており、最も高い時期でも2020年10月の3.1%が最大値であった。

独立行政法人労働政策研究・研修機構「新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響 国際比較統計」

そもそも、わが国における1948年以降約70年分の完全失業率推移を見返しても、その間多くの天災や景気変動があったにもかかわらず、2002年に記録した5%台がピークであったのだ。今般の世界的な感染症蔓延という危機時においても、このように雇用が安定しているのは稀有な環境であり、労働者にとっても安心できる材料といえよう。しかし、メリットがあればデメリットもある。実は日本の労働者が「雇用の安定」と引き換えに失っているものが存在するのだ。それは「高い賃金」と「良好な労働環境」だ。

戦後、わが国が高度経済成長期を経て世界第2位の経済大国に長年居続けられた理由の一つは、「日本が世界有数の人口大国だった」からに他ならない。国内市場が大きく、当時は高齢者よりも若い人の割合が圧倒的に多く、経済成長分野に予算をつぎ込むことができた(人口ボーナス期)という背景事情のたまものなのだ。

日本企業に特徴的な終身雇用(長期雇用慣行)が定着したのは、1950~60年代にかけての神武景気、岩戸景気と呼ばれた好景気がきっかけといわれる。多くの企業で労働力が不足し、人員確保と定着を進めるために、特に大企業において長期雇用の慣習が一般化した。

人口増加と好景気は、国民の所得を増加させるメリットがあった一方で、現在にも続くブラックな労働環境を構成する要素が形づくられたという面もある。モノをつくればつくった分だけ売れていくので、企業では残業や休日出勤、転勤や出向も厭わずに長時間働ける者が重宝され、評価されて出世していった。そして同じように家庭を顧みず、組織に滅私奉公する者を引き立て、同じような考えの管理職集団ができ上がっていくことになる。

それが良いか/悪いかという話ではなく、当時はその方法が日本経済発展における最適解だったのだ。実際、経済発展に伴って報酬も右肩上がりであったため、誰も将来に不安を抱かず、おおむねハッピーであったというわけだ。

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