しかし時代は移り変わった。人口は減少し、高齢者の割合は増加。労働力人口の割合は低下し、経済発展しにくい環境(人口オーナス期)となってしまっている。モノはある程度充足しているので、よほどの付加価値か新たな切り口を提案できないと売れないし、人件費は高騰しているため雇用を増やすこともままならない。共働き家庭の増加や高齢化による介護の必要性などから、育児や介護などの理由でフルタイム労働が難しい人の割合も増えている。
すなわち、人口増加・高度成長期にうまく機能していたシステム(長期雇用、年功序列、滅私奉公)が、現在の人口減少・低成長期にはまったくフィットしておらず、それどころか逆に足かせのようになっているのに、過去の成功体験から抜け出せないまま無理やり使い続けようとして齟齬(そご)をきたしているのが今なのだ。そのひずみが現在、「長時間労働の蔓延」「責任が重い割に低賃金」「組織のいいなりに転勤・転籍・出向を強いられる」「非正規雇用の立場が不安定」といった形で顕在化している。
「なぜ長時間労働を強いるのか」に対する結論は、我が国では労働者の解雇に関して法律と判例で厳しく規制されているため、仕事が減っても簡単に従業員をクビにできず、労働力の需給を「人数」ではなく「業務量」で調整しようとするからだ。すなわち、仕事が増えた際は「人を増やして対応する」のではなく、「1人当たりの業務量を増やして残業でカバーする」というソリューションを選択せざるを得ないことになる。そうすればその後仕事が減っても、余剰人員のクビを切らずに済むからである。
「転勤・転籍・出向を強いられる」のも同様の理由だ。仕事が増えた部署や地域で都度採用していては、その後、仕事が減った場合に簡単に人を減らせない。人が余っている部署から足りない部署へ余剰人員を回すことで、組織内で仕事と人員をやりくりしてクビ切りを回避するわけだ。
「責任が重い割に低賃金」である理由も根幹は同じといえる。わが国では解雇はもちろん、一度上げてしまった賃金の引き下げにも高いハードルが課されている。「仕事がないから解雇」「仕事の成果が上がらないから大幅減給」といった対応ができず、かつ終身雇用が要求されている以上、企業側としては「賃金水準を極力低めに設定して、何があっても雇い続けられるようにする」しかないのである。
正社員が簡単にクビにできないとなると、景気や業績の変動に伴うシワ寄せはどこに行くのか。それはもちろん、正社員よりクビにするのが容易な「非正規社員」である。本来、有期雇用の場合は雇用が不安定である反面、高いスキルを生かして高待遇を得ることができるという雇用形態であるはずだ。しかし、わが国の非正規雇用は、強力に雇用が守られる正社員の調整弁として、「低賃金かつ雇用も不安定」という、世界的にみて異常な立場に置かれているのである。
長時間労働、意に沿わない人事異動、低賃金、非正規雇用の待遇──日本の労働環境がブラックになってしまっている根本的な原因は、逆説的だがひとえに「正社員の雇用を守るため」なのだ。
では、その解決に向けてどのような方策が考えられるのか。詳しくは下記の記事「日本人は、自らブラックな労働環境を望んでいるといえなくもないワケ」をご覧頂ければ幸いだ。
※本記事はメルマガ『ブラック企業アナリスト 新田 龍のブラック事件簿』2021年5月14日号の一部を抜粋したものです。2021年5月中のお試し購読スタートで、新田さんのメルマガの5月分全コンテンツを無料(0円)でお読みいただけます。
【関連】法律で守られたはずの正社員を次々クビにする日本企業の恐ろしいカラクリ
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