自民「1.5億」再燃の怪。岸田氏が仕掛けた首相の座を狙う大バクチ

 

この種の問題を語るとき、忘れてはならないのが、党事務総長、元宿仁氏という存在だ。自民党の政治資金を全て知る男。すなわち、政治の裏側を誰よりも見てきたのが元宿氏といえる。なにしろ、2000年以降、ある一時期を除き、自民党本部の事務方トップとして君臨してきたのだ。

幹事長は次々交代するが、汚れ仕事にもかかわる事務方のトップともなると、そうはいかない。まずなにより、口が堅いことが必須条件だ。たやすく代わりの人材は見つからない。

「ある一時期を除き」と先述したのは、元宿氏が民主党政権の誕生後にいったん自民党本部を退職し、安倍政権の復活後に呼び戻された経緯があるからだ。安倍前首相にとって、「余人をもって代えがたい」のである。

河井陣営への1億5,000万円配分も、実務は元宿氏が仕切っているはずだ。国政選挙にあたり自民党から候補者に配られるのは公認料と選挙資金合わせて1,500万~2,000万円ほど。候補者の優劣評価や重視度合いで、いくらか配分額の違いはあっても、相場の10倍となると、異例中の異例だ。

しかるべき人からの指示がなければ、元宿氏は了解するまい。かりに二階幹事長が関与していないとすると、あとは当時の総裁、安倍晋三氏しかいない。総裁の指示で支出するのなら、幹事長には報告だけですむ。

事情をすべて知ったうえで、二階幹事長はとぼけているのだ。5月24日の会見では「総裁と幹事長に責任がある」と、初めて「総裁」に言及したが、原則論を持ち出して話をぼかし、その実、自分のせいじゃないことを仄めかしたかったに違いない。

むろん甘利氏が安倍氏の盟友であるのは周知の通りで、2019年参院選当時の選対委員長として、河井案里氏の立候補に関わったのは確かだろう。ただし、選対委員長の立場で党本部資金を拠出するなら、二階幹事長の了解を得る必要がある。そんな面倒な手続きを省いて、元宿事務総長に直接、支出を指示できるのは当時の安倍総裁しかいないのだ。

「官邸から、出なさいって言われたの。それじゃあ、出ましょうかってお受けしたんです。落ちたら無職ね」

参院選への立候補が決まった後、河井案里氏が支持者に語った言葉である。のちに二階派入りしたとはいえ幹事長主導でなく、官邸主導だったことがわかる。選挙違反事件で辞職した広島県府中町の町議会議員は報道陣の取材に対し、案里氏の夫、河井克行氏から「安倍総理からです」と現金30万円を渡されたことを認めている。

さて、二階執行部と甘利氏の言動に反応したのが、1億5,000万円問題をあらためて党本部に突きつけた岸田文雄氏だ。5月18日、BS-TBSの「報道1930」に出演し、こう語った。

「1億5,000万円を出したその後、それを何に使ったか、これを明らかにしてもらいたい。我々が申し入れをした論点と、昨日から騒ぎになっている論点、これはちょっとずれている」

“犯人捜し”は自分の本意ではないというアピール。察するにこれは、安倍氏に向けた言葉であろう。

あなたの指示であることはわかっている。今それは問わないが、この問題そのものは消えていない。私という存在をないがしろにしてもらっては困る…柔らかな物腰に潜む岸田氏の思いが伝わってくるようだ。

いうまでもなく岸田氏は「ポスト菅」の有力候補である。安倍前首相からの禅譲を願って叶わず、次こそはという気持が強い。その人の目に現下の政局はどう映っているだろうか。

もともと党内基盤が弱い菅首相の求心力はこのところ、とみに落ちている。二階幹事長との関係も以前ほどしっくりいっていない。幹事長交代要求を菅首相に突きつける安倍氏の盟友、麻生副総理には、二度と二階氏の思うようにはさせないという決意さえ感じられる。総理総裁の座を狙う岸田氏には、またとないチャンスが到来しているのだ。

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