なぜ無観客ではダメなのか?東京五輪で納得いかない3つの大疑問

 

(3)五輪関係のメディア関係者は、市中取材を禁止するという措置が取られるそうです。そうは言っても、事実上不可能です。まず、海外の一般メディアにおいては、日本のコロナ事情というのは、極めて興味深いニュースなのです。この問題の取材無くして、彼らのオリンピック・ストーリーは完結しません。

とにかく自由と人権を守った上で、人口比で欧米の20分の1に感染を抑えた秘密は何なのか、ほぼ100%がマスクをするという社会の文化的な背景はなどと、興味津々だからです。そのくせ、政府が世論のワクチン嫌いを恐れて、手配が後手後手に回ったなどというエピソードも、往年の経済大国との比較で、「おいしい話題」にされそうです。特に、80%が反対という中での五輪開催ということで、反対運動など色々な事件が起きれば、それは絶対に報道しなくてはならないと考えるでしょう。これは権力の側からは、少々カッコ悪いニュースかもしれませんが、そうした自由な言論が保障されている日本ということを世界に見せることはとても大切です。

これに加えて、多くの欧米の主要メディアは、東京に拠点を持っています。そこには、現地採用の日本人記者もいれば、海外からの駐在員もいます。海外駐在員であっても、パンデミックの期間中、ビザが有効で一度も出国していなければ、平常に東京で取材活動をしています。五輪の際には、彼らは、出張してきた五輪専門の記者とチームを組んで仕事をすると思います。

これは当たり前のことで、例えば電源から回線から取材許可に至るまで、日本の事情は現地事務所が知っているわけで、出張組だけでは仕事はできません。例えば、ロンドン五輪の際に、NHKが大クルーを送り込む中で、ロンドン支局と離れて動くなどということは不可能であったであろうことを考えれば、容易に想像がつく話です。

ですから、五輪メディアは、他とは隔離とか市中取材は禁止などというのは、事実上は不可能なのです。これも実は前項と同じ問題で、「英国株をバラまいたロイター元記者のトラウマ」に縛られているからですが、その解決は、日本でワクチン接種率が進み、ワクチンへの理解が進めるしかないと思われます。

(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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