アフガン米軍撤退はトランプが仕掛けた巧妙な「時限爆弾」説の根拠

 

ただ、この点に関してはアメリカはよく分かっていると思います。タリバンと、ISはよくライバルと言われる一方で、反米闘争を続けて来たということでは共通しています。ですが、ISというのは「サダム・フセインの特別共和国防衛隊」の残党を中心としており、その名の「イスラム国」というのは正統カリフ時代とかウマイヤ朝、アッバース朝などの「再興」を気取って自称しているわけです。従って、彼らの話す言語はアラビア語です。

一方で、タリバンというのはアフガン南部からパキスタン北部の遊牧民などがルーツであり、使用言語はペルシャ語の地方方言になります。ですから、恐らくISのテロリストからすれば、タリバンは「地の果ての田舎者」的な見方をしていると思いますし、タリバンからISは偉そうな乱暴者にしか見えないはずです。ちなみに、タリバンがビンラディンを賓客として扱ったのは、ソ連軍を撃退する際の同志だったからですが、ISとの間にはそんな共通点はありません。

反米ということで言えば、勿論タリバンは長い年月アメリカと抗争して来ましたが、現在は和平・撤兵合意の当事者であり、この点ではISとは異なります。現在は、カブール、特に国際空港周辺ではタリバンが米軍と米国人をISから守っている構図になっていますが、これもそのような政治的な構図を反映したものです。

タリバンは、既に大学の男女別学を打ち出すとか、女性アナウンサーを排除、あるいは音楽の禁止を徹底するために歌手を殺害といった行動に出ています。20年前と全く同じで、ヒドい話ではありますが、本気でシャリーア(イスラム法)の徹底をやるのであれば、もっと迅速かつ苛烈に行うはずで、今はまだ統治の手応えもなければスキルもない中で試行錯誤的にやっている感じもします。

今後ですが、とりあえず8月31日の米軍撤退期限以降について、

  1. 米国人をはじめとする外国人のスムーズな待避が続くのか?
  2. アフガン人の米国もしくはNATO協力者への弾圧が始まるのか?

という2点が当面の焦点になります。その中で

(最悪のシナリオ)タリバンとISが連携して、1.2.を人質に取ってガニ前大統領の身柄引渡しなどを要求、膠着状態からバイデンは再度軍事対決へ。

(最善のシナリオ)タリバンはIS討伐に協力、しかも古い価値観をやや改めて、漸進的な改革をスタート。米国はこれを見守る。

というのが両極端だとすれば、現実はその中間のどこかということになります。

私の予想ですが、この後で、ガニ前大統領とその周辺の汚職や蓄財に関する扱いが一つの焦点になると思います。タリバンはガニを極悪人呼ばわりしています。その一方で、アメリカは現在もガニの亡命を受け入れていません。アメリカは、6月の時点でも受け入れずに一旦アフガンに戻していますし、現在もおそらくはUAEに留めたままとしています。

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