【相場展望】今後のリスク要因にも、好機にもなるオイルダラー

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実は「スイス発」は海外投機家のキッカケであって、実体は原油安が淵源である

『山崎和邦 週報「投機の流儀」』第138号(2015年1月25日号)

原油安は輸入国の日本には有利であることは確かで、株式相場の強気筋は「トリプル・メリット」と称して、第1に原油効果、第2に円安効果、第3に追加緩和の効果の3つで株高だという説も多い。確かに原油安は年間28兆円も輸入している日本にとっては数兆円のトクにはなる勘定だ。では、ストレートに株高につながればいいではないか。そうならず却って12月の今回も「原油安で株安」とはどういうことか?

そこで今回は12月から市場を振りまわしてきたオイルダラーについて少々纏めてみる。

昨年12月以降、市場の撹乱要因は産油国資金だった。そこで、「原油安のもとでのオイルダラー」について要約する。

これからは政府系ファンドSWF(国富ファンド=ソブリン・ウェルス・ファンド=SWF)が、市場の変動要因になるであろう。原油高が始まる頃、高度成長の60年代末に、めったに大幅値動きをしなかった大型株の日立が仕手株のように上がった。ドレイファス・ファンドという海外ファンドの買いだと言われて、海外ファンドと言うものは、簡単には動かない大型株(当時は資本金100億円以上を言った)を仕手株のように暴騰させる、と言うことを知った。

その頃、「オイルダラー」という怪物もある、と聞いていた。筆者が野村証券の後で三井ホームの常務をしていた頃、アラビア系の名前の株主が大株主の数番目に名を出して株価が暴騰したことがあった。2倍くらいになった。昨年12月に原油価格が暴落したころ、筆者は「オイルダラー」を気にはしたが、それがスイス問題を契機として激動するとまでは読めなかった。

だが、結果は素直に認めるしかない。そこで既報でお知らせしたが先週末に瞬間500円安した日、日経レバ(1570)を、平均12,100円平均で少々買ってみた。証券会社から「あまりぞぉっとする所でもないが少し行ってみますか」と電話が来たので、素直に市場の現象は認めるべきだと思って乗ったものである。序に報告すると12,100円平均で買い、火曜日の大引け間際に指値の12,960円で売れた。本来、こんな短期の売買は好きでないが、原油価格に振り回れるという事態に素直に乗って見ただけである。お勧めできることではない。

政府国富ファンドSWFの大手25ファンドを挙げると、その合計は約800兆円で約半分が産油国である。上位3番目までは1位ノルウェイ政府年金基金(日本のGPIFのことを述べた昨年号で、日本に次ぐ世界第2位の北海油田ファンドだと付言した、あれである。約110兆円)、2位がアブダビ投資庁の約90兆円、(人口わずか数10万人の砂漠の中の王国、筆者がアラブ首長国連邦UAEに行ったとき、興味本位でその原油取引所を覗いてみたが、中学校の教室くらいの部屋だったのでびっくりした。一言断ってからシャッターを切ったのにフィルムを取り上げられた)、3位がサウジアラビア通貨庁で約90兆円、4、5位は中国だが、6位はクウェート投資庁で約70兆円、産油国4ファンドの合計が約370兆円だ。

これは世界の運用資金の約5%を占めると言う(日経新聞20日号)。

海外投資家の日本株買い越し金額の史上最高額が16兆円だったことを思えば化け物のような存在だ。

1969年夏(だったと記憶しているが)、超大型株で簡単には動かなかった日立株が仕手株のように暴騰したことを思い出す。「オイルダラー」と称して怪物視したが、それが蘇ったら市場は撹乱されるのは当然だろう。

20日(火)の日経新聞によれば、今の原油価格は彼らの経常収支も財政収支も均衡水準に満たない。OPECが米シェールガス締め付けの戦略的武器として原油価格の下落を策した、あるいは米が産油国と組んで対ロシア戦略として原油安を仕組んだ、という説もあるが、これ以上の下落はロシアのみならず産油国の首を絞める自縄自縛となろう。

観光客のフィルムを取り上げるくらいだから、影の部分が多いオイルダラーだが、これはどういう意図で、どういう戦略的武器として使われるのか筆者には分からない、というのがホンネだが、このオイルマネーの直接的な動きだけでなく、その動きを見越したヘッジファンドや海外投資家の動きは新たなリスク要因にもなったし好機にもなろう。

 

『山崎和邦 週報「投機の流儀」』第138号(2015年1月25日号)
著者:山崎和邦(大学教授/投資家)
野村證券、三井ホームエンジニアリング社長を経て、武蔵野学院大学名誉教授に就任。投資歴51年の現職の投資家。著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)など。メルマガ「週報『投機の流儀』」では最新の経済動向に合わせた先読みを掲載。
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