またも潜り込む竹中平蔵。岸田政権「新しい資本主義」の大ウソを暴く

 

デジタルで「田園都市国家」ができるのか?

これに対して岸田の「デジタル田園都市国家構想」は、何の哲学、文明論、時代観にも裏付けられていない。はっきり言って、大平研究会からその言葉だけを借用して「デジタル」を貼り付けて現代っぽく見せかけただけの似て非なるものである。

その浅薄さは、11月11日の「デジタル田園都市国家構想実現会議」第1回会合に牧島かれんデジタル大臣から提出された「イメージ」図を見れば一目瞭然だろう(図2)。

まず何よりも、英語、英字頭文字、カタカナが多すぎる。例えばこの宇宙船のようなコミュニティを下から支えるのがデジタル・インフラであるらしいのだが、その接点となるのは「API GW」である。この頭文字を見て「アプリケーション・プログラミング・インターフェース ゲートウェイ」と読むことができ、その意味を理解できる日本人が一体何人いると言うのだろうか。「Sustainability」とか「Well-being」とか「MaaS」などの英語・英字がなぜ必要なのか。「Well-beingの向上とKPIの設定による改善で輝く暮らしを」と言うが、これって、「幸福度が向上し、さらにキー・パフォーマンス・インディケーターすなわち重要業績評価指標を設定して幸福度を改善すれば輝く暮らしを」と日本語で言われても何のことやら分からないものを英語・英字混じりで言われたのではますます分からない。あ、「MaaS」を知ってますか?「モビリティ・アズ・ア・サービス」の頭文字で、例えば自宅から公共交通機関で都心に出てこの映画を観たいとスマホに入力すると、AI(あ、人工知能ですね)が道順や時間を教えてくれ、必要な予約や料金決済まで全部済ませてくれる仕組みで、北欧の大都市ですでに実験が進んでいるという。

深刻な地方の衰弱も、デジタルという魔法のスパイスを振りかければほらたちまちwell-beingというような軽佻浮薄な話に誰が付いていくだろうか。

余談:ドイツの新しい首相に決まったオラフ・ショルツ副首相の友人にフンボルト大学の哲学教授フォルカー・ゲアハルトがいる。2人が知り合ったきっかけは、2007年にベルリンからハンブルクに向かう電車の中でショルツがゲアハルトに「あなたは、私が読んでいるこの本の著者ではありませんか」と声をかけたことによる。「彼のような実務家が、照学の理論に興味を持っていたことに驚き」、以後2人は哲学や人生を語り合う仲となった(11月26日付毎日)。ショルツは労働法専門の弁護士の出身で、日本語に翻訳されたゲアハルトの数少ない論文の1つは『人権への権利』と題した論集に収められた「人権とレトリック」なので、その辺りに接点があったのかもしれない。いずれにせよ、電車の中で哲学書を読むような人に総理になってもらいたいものだ。大平正芳は熱心なキリスト教徒で、渾名の1つが「哲学者」だった。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2021年11月29日号より一部抜粋・文中敬称略。全文はメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』を購読するとお読みいただけます)

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2020年3月配信分
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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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