金正恩が大規模な住宅建設を進める背景には、住環境を改善することで、経済難に苦しむ住民の不満を和らげたいという思惑があるようだ。その成果を金日成生誕110年を前にアピールし、祝賀ムード演出とともに国威発揚を図ったものである。
さらに、朝鮮中央通信は16日に平壌市の松新、松華地区の1万戸住宅建設現場を視察する金正恩を紹介しているが、例によって片手にたばこを持ち、自分だけ皮ジャンバー姿での視察である。
この地区には、すでに80階建てのタワーマンションが建てられている。この高層マンションには一体誰が、どれくらい住むのか。北朝鮮の経済・社会問題を研究してきた者には、このマンションは“砂上の楼閣”“張りぼての建物”にしか見えない。
このマンションに供給される電力はどのように配給するのか。水道供給能力はあるのか。80階までの直通エレベーターは何基設置されているのか。報じられている写真を見る限り最寄りの交通手段へのアクセスはどうなっているのか、駐車場などはどうなっているのか。
電力不足の北朝鮮では高層階に住む人は、電力が来なければ「炊事・洗濯・トイレ」の問題で散々苦労してきた。「バカと煙は高いところが好き」という言葉があるが、北朝鮮の人は「高層階よりも低層階(せめて5階まで)」を好み、一番理想的な住居は「平屋かせいぜい2階建てまで」である。
脱北者に「北朝鮮のいいところは何だ?」と聞いたところ「地震がないこと」と答えたが、短期間での工事とまともな建築資材不足の中で作られたこれらの高層マンションの今後に注目していく。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)
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