欧州は対ロシア政策で警戒
イタリアの新政権に対し、欧州諸国は警戒を強める。連立政権に極右政党の「同盟」と「フォルツァ・イタリア」が含まれているためだ。
これらの政党は“ロシア寄り”の立場で知られ、これまでのEU(欧州連合)の対ロ強硬路線で同調してきたイタリアの姿勢が変われば、今後の対ロシア包囲網が不安定化する可能性も。
イタリアは、EU加盟国で、ドイツ、フランスにつぐ3番目に大きい経済規模を持ち、NATO(北大西洋条約機構)の有力なメンバー。
ただ、イタリアのメディアは、政党「フォルツァ・イタリア」を率いるベルルスコーニ元首相が側近の議員との会合で、いまだプーチン大統領との親密な関係をつづけているとしたうえで、ウクライナのゼレンスキー大統領を非難したとする発言をしたと報道。
もう一方の政党「同盟」のサルビーニ党首もロシアよりの立場だ。
これに対し、メローニ首相はロシア政策でほかの欧州諸国やアメリカとの足並みを揃える方針を示しているが、しかしNATOの部隊運用や対ロ政策の“機密情報”にアクセスできるポストに「フォルツァ・イタリア」や「同盟」の幹部が就くことは不回避だとも(*7)。
そのため、イタリアとの軍事機密の共有レベルを下げる可能性も指摘されている。
欧州、「極右」政党席巻
イタリアだけでなく、近年、ヨーロッパでは「極右」とされる政党の躍進が相次ぐ。スウェーデンやフランスなどでも極右政党の議席が伸びた。
その背景には、経済問題や移民の流入が要因とも。一方で、専門家は1930年代に「民主主義の脅威」と恐れられた時代とは、現在に欧州の極右の姿は変化しているとの声もある。
フランスの国際関係戦略研究所(IRIS)で極右思想を研究するジャンイブ・カミュ氏は時事通信のインタビューに対し、極右の勢力拡大は、「米国や中国の経済的台頭」が背景にあると指摘、
「欧州が世界の中心でなくなり、立ち位置を見失っている」(*8)
とし、さらに中東やアフリカからの移民が大量に流入し、
「自分たちのアイデンティティーが分からなくなり、過激な移民排斥が支持を集めた」(*9)
とした。
ただ、第二次世界大戦前と状況は異なるとする。フランスのルペン氏は、父親であるジャンマリ氏のような過激なイメージを払拭、メローニ氏もかつてのファシスト色をなくす。
他方、ハンガリーやポーランドの極右政権下ではメディアの統制が強まり、予断を許さない状態にある。
■引用・参考文献
(*1)宋光祐「【そもそも解説】イタリアでいったい何が? 首相に右翼党首の公算大」朝日新聞DIGITAL 2022年9月26日
(*2)「ジョルジャ・メローニ氏、新首相に就任 イタリア初の女性首相」CNN 2022年10月24日
(*3)宋光祐、2022年9月26日
(*4)西日本新聞、2022年10月22日付朝刊
(*5)西日本新聞、2022年10月22日
(*6)西日本新聞、2022年10月22日
(*7)田中孝幸、日本経済新聞、2022年10月22日付朝刊
(*8)「欧州で極右躍進 かつて『民主主義の脅威』─伊政権」時事ドットコムニュース 2022年10月23日
(*9)時事ドットコムニュース 2022年10月23日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年10月30日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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