「ゼロコロナ」緩和で感染爆発。緩和前より人がいない北京のイマ

 

そもそも中国のゼロコロナ対策──ゼロコロナという言葉自体が中国にとって逆輸入である──は、早期発見から早期隔離を定めたもので、感染者数をゼロにする目標設定ではない。

日本のメディアは、「ゼロコロナ対策を修正することは、これを成功体験とする習近平政権の面子を潰すことになるためできない」と、人災といわんばかりの報道を展開していたが、これは大きな誤解だ。

武漢に始まったロックダウンには根拠となった3つの法律があるのだが、いずれも2002年から2003年(胡錦涛時代)にかけて改修、制定されたものだ。まさしくSARS(重症急性呼吸器症候群)に苦しんだ体験を受けた法改正であり、新たな感染症の脅威に際して採るべき政策は、この時点でほぼ決まっていたのである。

ましてや、習近平の鶴の一声でロックダウンがされたわけでもない。さらに大きな誤解は、習近平の面子のために経済を犠牲にするという見立てだ。およそいまの時代、どの国のどの政権にとっても経済を蔑ろにする勇気などない。

ただ中国にとって不幸だったのは、短期間に厳しい対策をして、短期間で日常を取り戻し、感染対策で落ち込んだ経済をV字回復させるというシナリオがオミクロン株の流行から通じなくなってしまったことだ。結果、習政権は厳しい対策をずるずると長びかせてしまったのだ。

さらに問題は、中央が発した感染対策の適正化(という名前の実質的な緩和)を地方政府がきちんと受け止めなかったことだ。すでに6月には国務院から通達が出されていたのだが、対策が緩まることはなかった。これは20大(中国共産党第20回全国代表大会)への影響を考慮した地方のサボタージュと考えられたが、計算外だったのは党大会後にも変化が現れなかったことだ。これに対し「党大会が過ぎれば」と期待していた国民がしびれを切らし、反発を強めたのである。

11月11日の対策「20条」や前述した孫春蘭の対応は、まさしく中央の地方への怒りを体現した動きといえるだろう。北京では、これに加えて緩和の「新10条」が出され、新型コロナの初期の感染拡大防止に貢献した鐘南山医師が、オミクロン株の罹患後の後遺症について、人々を落ち着かせるような情報も発した。

現状、冒頭で触れたような驚くべき緩和がスタンダートになっているのだが、前述のB氏は、「街は対策が緩和される前よりも人がいない」と笑うのだ。A氏も、「みな感染してしまったか、それとも自分の身を守らなければならないって、かえって慎重になっているのでしょう」と語る。

そしていま、別の悩みが北京に降りかかっているというのだ──
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2022年12月11日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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