なぜフルネームで呼ぶ?病院の「患者呼び出しシステム」が抱える問題点

 

実際にあった取り違え事案

手術時の左右の取り違えなどは、個人は合っているものの、治療対象を取り違えているパターンだと思います(私事ですが、父が肺がんになった際に主治医ががんの無い側の肺に聴診器を当て「音は昨日よりいいですよ」と言われバチギレしていたのをよく覚えています。患者からしたら左右もわからん医者に命を預けられるか!と思って当たり前なんですけれど……)。これは正直ちゃんと直前に診察対象のカルテを見てくれよとしか言えないのですが……。

ちなみに私も患者さんを間違えたことがあります。私が実際にやってしまった患者さんの取り違えは、日曜日に当直医が入院とした患者さんの主治医に任命(業界?用語で「当たる」と言います)された時に発生しました。当院初診なので私は月曜日に主治医になったものの当然ながら一度も会ったことがない患者さんの顔を全く知りません。こういう場合は病棟の看護師さんに確認するしか方法がないので「昨日入院された◯◯さんってどの方ですか?」と質問しました。そして看護師さんは全く違う△△さんを私に◯◯さんとして紹介してしまいました。この時私が先に「お名前をお伺いしてもよろしいですか?」と△△さん(私は◯◯と名乗られるつもり満々!)に聞き、「はい、△△です。」と言われたので事なきを得ました。

患者さんからすれば「いちいちフルネームなんて確認しなくても普通間違えないでしょ」と思われているかも知れない名前確認なのですが、割とこういった危険なミスを未然に防いでいるケースがあり(特に大きな病院の場合、患者さんの人数が破茶滅茶に多いのでリスクはゴリゴリ上がります)、ご面倒かとは思いますがご協力いただけますと幸いです。

他の取り違え事故から考えられる一番良い対応と問題点

色々調べましたがやはり医療従事者から「○◯さんですか?」と聞くよりも、患者さんから「◯◯です」と名乗っていただくのが一番事故率が減るようです(実際呼び出した後に「お手数ですがお名前をフルネームで名乗っていただけますか?」とご本人にお願いするようにマニュアルを組んでいる病院がありました。こうすることで患者さんが名乗っておられる間、医療者はカルテやラベルを見ながら確かにその名前だな、と確認することが可能になりますし安心です!)。

ですが、やはり「病院に通院していることを他の人に知られたくないから名前を呼ばれたくない!」という人は一定数おられます。これは感情的に……というものから、「ハラスメント被害者であり、加害者から避難中なので名前で個人を呼び出さないでほしい」「性同一性障害がありフルネームが想起させる性別と自分の自覚している性別がズレており本名を名乗りたくない」など様々な理由があり、それは決して軽視できる内容ではありません。

そういった人からしたら「呼び出しでフルネームを言われ、その上自分でフルネームを言わされるのか!!」とお怒りになるのも尤もです。

これに関しては厚労省も「個人情報の取り扱い、患者さん個人の気持ちを大事にしよう!フルネームに固執しなくて良いです!(病院と患者さんの間で呼び出し方を相談して決めて良い)」という立場です。

一番大事なのは一人一人の患者さんが、適切な医療を受けられることですから嫌がっているのに名前を呼ぶことに固執しているのは本末転倒なので病院側も脳死で「ちゃんとフルネームを名乗ってください!確認で必要なんです!」と言ってはいけないことだと思います。

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