客単価5000円~7000円の人気焼き肉店は今なぜ「ホルモン焼き」「もつ焼き」メインの店を相次ぎ出店しているのか?

 

和牛高騰、人材不足への対抗策

神奈川県の県央部で「食彩和牛 しげ吉」という焼き肉店が展開している。場所は、大和市、横浜市、藤沢市で住宅地を背景にした地元密着の店だ。特徴は和牛を提供しながら客単価が5,000円ということ。一般的な「5,000円の焼き肉店」というイメージを超えたお値打ち感がある。

同店を展開しているのはシゲキッチン(本社/横浜市中区、代表/間宮茂雄)。同社は代表の間宮氏(42)が2003年22歳のときに大和市内で独立開業(現在の大和本店)したもの。現在「食彩和牛 しげ吉」が6店舗、牛肉の端材でつくった焼売を提供する「焼売酒場 しげ吉」1店舗、ほかにFC店を3店舗展開してきた。

シゲキッチンではこの3月10日に初のもつ焼き業態となる「もつ焼 しげ吉」を小田急線・相鉄線の大和駅から徒歩2分の飲食店街に出店した。同店を出店した狙いについて間宮氏はこう語る。

「『しげ吉』は創業以来『いいものを安く』というモットーで展開してきたが、昨今は和牛が高騰し、さらに人材不足ということが加わり店舗展開が難しい。では外国産の牛肉を使って原価の高騰を吸収しようと考えたが、それを『しげ吉』ブランドでやるのは忍びない。そこで『いいものを安く』というモットーをもつ焼き業態で表現しようと考えた」

「しげ吉」では全店BGMにサザンオールスターズを採用して地元客に人気、「サザンの店に行こうぜ」という感覚

「しげ吉」では全店BGMにサザンオールスターズを採用して地元客に人気、「サザンの店に行こうぜ」という感覚

「もつ焼き」がひらめいたのは、肉の卸業者が語る「いま内臓が売れにくい」ということがヒントになった。また、同社の既存の焼き肉店では各店に肉をさばく職人がいて、肉の卸業者から届いたブロック肉を各店でさばいている。この工程はアルバイトには任せることができない。それが内臓であれば、下処理は和牛のブロック肉と比べると容易であり、一部下処理したものを卸業者が届けてくれる。「いいものを安く」をモットーとしながら、原価の高騰と人材不足を解決できるのが「もつ焼き」ということだ。

もつ焼き店は焼き肉店とは異なり、店頭から見える焼き台のパフォーマンスも重要となる

もつ焼き店は焼き肉店とは異なり、店頭から見える焼き台のパフォーマンスも重要となる

もつ焼き店を構えることで立地が多様化

既存の「食彩和牛 しげ吉」の原価率は45%となっている。これで利益体質をもたらしているのは出店立地が駅から遠かったり、郊外にあることで家賃比率が低いこと。そして5,000円という圧倒的なお値打ち感が目的来店となる。一方、もつ焼き店の立地は駅近である必要があり「もつ焼 しげ吉」は客単価3,500円、原価率は30%を想定している。間宮氏は「既存のもつ焼き屋にない商品力によって、まず3店舗の成功事例をつくり、3年間で10店舗、FC展開も進めて10年間で100店舗を目指す」と語る。

「もつ焼 しげ吉」はFC展開を想定していて、一般的なもつ焼き店にはないフードメニューを心掛けている

「もつ焼 しげ吉」はFC展開を想定していて、一般的なもつ焼き店にはないフードメニューを心掛けている

筆者は間宮氏に「焼き肉店を営んでいる飲食業がもつ焼き店を営むメリットとは何か」と尋ねた。間宮氏はこう語った。

「当社では肉の卸業者さんに無理をお願いしてなかなか手に入りにくい肉を仕入れることができている。同じ卸業者さんから内臓を仕入れるのはその恩返しという位置づけ。このような形で卸業者さんとの関係性を深めていきたい」

これはB to Bにおけるウィンウィンである。そして、焼き肉店で目的来店の顧客を培ってきたシゲキッチンにとって、新たにもつ焼き店を展開することは「しげ吉」ファンの利用動機を広げることになる。

前半、後半の事例とも、中価格帯として成長してきた焼き肉店にとって、ホルモン焼き、もつ焼きに取り組むことは、これまで同社が築いてきた「客層」「価格帯」「出店立地」を開拓することにつながっている。まさに「賢い選択」と言えるだろう。

image by: 千葉哲幸
協力:株式会社テイクファイブ , 株式会社シゲキッチン

千葉哲幸

プロフィール:千葉哲幸(ちば・てつゆき)フードサービスジャーナリスト。『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)両方の編集長を務めた後、2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しい。「フードフォーラム」の屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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