ウクライナの状況
ゼレンスキー大統領は、進まない攻勢の解消のため、米国製の長距離兵器が必要だと述べた。しかし、米国は、7/7発表のウクライナ支援最新パッケージに、クラスター弾の供与を明記したが、ATACMSの供与はなかった。具体的には、155mmDPICM(対人・対装甲クラスター砲弾)である。
クラスター弾は広範囲に「子弾」をまき散らす。このため、塹壕でウ軍反攻に備えるロ軍に対して効果的だ。一発でサッカー場30個分を焦土化できる。
昨年2月の侵攻以降、ウクライナ、ロシア両国ともクラスター弾を使用しており、最近ではウクライナがトルコから供与されたクラスター弾の使用を開始している。
サリバン米大統領補佐官は、「ウクライナが十分な砲弾を保持できずにロシアが進軍し領土を奪ってウクライナ国民を支配すれば、一般市民に被害が及ぶリスクが大きい」とし、かつ「ウ軍に都市部で使用させない」ことを条件としたと表明した。ウクライナが自衛を目的としてクラスター弾を使うのは正当化できると言及した。
ウ軍としては、ATACMSの供与が欲しかったが、バイデン政権は、ATACMSでウ軍がロシア領内を攻撃する危険性を考慮して、クラスター弾の提供でお茶を濁したようである。
このクラスター弾供与に対して、ドイツ外務省、スナク英首相と国連事務総長が反対を表明した。
もう1つ、ウ軍が望むものはF-16の供与であるが、まだ、パイロットの訓練も始まっていないことがわかっている。
その訓練であるが、ルーマニア国防最高評議会は「ロッキード・マーティンや同盟国と協力して設立されるF-16訓練センターはウクライナや同盟国のパイロットにも解放される」と明かしたため、ウ軍パイロットの訓練はルーマニアで行われる見込みのようである。
やっと、訓練が開始される見込みがついた段階で、11月以降しかF-16はウ軍に提供されないことになる。今回の攻勢には間に合わないか、攻勢を冬場まで続けて、F-16を活躍させるよう長丁場にするかだ。
ウ軍の前線で、攻撃ヘリを撃ち落すための携帯式地対空ミサイル「スティンガー」が不足している。この不足がウ軍反攻の足を引っ張っている。このため、製造元の米レイセオンではウクライナにスティンガーを送るため、引退した技術者たちまで駆り出して増産しているという。
それと、ゼレンスキー大統領は、トルコを訪問して、エルドアン大統領と会談した。エルドアン大統領は、ウクライナはNATO加盟に値するした。また、ロシアが拒否する黒海経由の穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)の延長について、話し合われたようである。また、トルコにいるアゾフスタールを守った5人のウ軍アゾフ連隊司令官を祖国に連れ帰った。
NATOのストルテンベルグ事務総長は、「ウクライナが将来的にNATOのメンバーとなるという見解を再確認し、NATOは結束し、ロシアの侵攻は許されないという明確なメッセージを送る」と言明した。NATO首脳会談が7月11日~12日にリトアニア・ビリニュスで開催される。日本の岸田首相も参加する予定である。
このように、ウ軍は着実に前進していることで、ゼレンスキー大統領は、ズィミーニー島(蛇島)に上陸訪問した。戦争開始500日に、奪還したこの島は、クリミア奪還を象徴しているからだ。
ポドリャク大統領府長官顧問は、「ウクライナとロシアの戦争は何年も続かない。ロシアの資源は徐々に減少している。敵は戦前に持っていたものをほとんど使い果たしており、新たな武器やミサイルを生産する必要があり、その材料を集める必要があるが、制裁で苦労しているので、量を確保できない」
ということで、勝利後のウクライナは戦後の体制を考え始めている。経済復興のために、ウクライナは、TPP加盟申請を行った。農業生産物の多いウクライナは、日本などの食糧自給の少ない国への輸出が必要であるからだ。もう1つが、日本が戦後復興事業で中心となるので、それとの見合いであろう。
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