無自覚な“先生君主”たち。江差高等看護学院パワハラ事件報道に思う

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質の高い番組の制作・放送を促し、放送技術の質的向上と放送活動の発展のために、民放各社が放送した番組を部門・種目別に表彰する「日本民間放送連盟賞」。北海道・東北地区のラジオ報道部門の審査員を評論家の佐高信さんが務めたそうです。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では、まず出品作に原発関連の番組がなかったことを疑問視。その後、候補となった3番組を紹介し、特にSTVラジオが報じた北海道立江差高等看護学院のあまりに酷いパワハラ事件について、教師の無自覚を指摘。この学校だけにとどまらない問題と危惧しています。

天災と人災

7日は民間放送連盟賞の北海道・東北地区の審査だった。ラジオの報道部門である。大分前からやっているが、今年は6本の作品を聞き、3本に絞った上での審査となった。

2011年の3・11を中心とした防災番組が多い。しかし残念だったのは原発問題を追った作品が1つもなかったことである。天災と人災はからみ合っていると思うが、人災の最たるものである原発にどの局も焦点をあてなかったのには何か圧力が働いているのかと考えざるをえない。福島の民放局が作品を出さなかったのも1つの原因かもしれない。

防災では岩手放送の「わすれない3・11」がユニークだった。「防災文化を未来へ─僧侶たちの12年」というタイトルが示すように坊さんにピントを合わせたのである。

被災地では3・11当時、1日に10件も葬式をしなければならなかった。そうした体験を経て、13回忌の2023年。ある僧侶が「生きましょう。それが一番の供養です」と涙ながらに語る。また、「神も仏もあるものか」と思わず弱音を吐いた僧侶が娘にたしなめられる場面もある。

津波の高さと同じ場所まで駆け上がるイダ天競争をやっているところもある。あの教訓を忘れないためである。

秋田放送の「日本海中部地震から40年」という番組では「オレだけ助かった」とつぶやく人の声が耳に残る。「助かった者」にも傷は残るのである。この番組では紙芝居が効果的に使われている。「まさか」という坂はないと言われるが、やはり、ないとは言えないと言わなければならないだろう。

審査員の3人が一致して中央審査に送ったのは、札幌テレビ放送(STV)ラジオの「先生たちが敵だった─夢を奪われた看護学生たち」だった。

私自身も教師をやったことがあるからわかるのだが、学校は極めて閉ざされた社会であり、それを教師たちが自覚していない。「専制君主」ならぬ「先生君主」がそろっているのである。

江差高等看護学院で悲劇は起こった。副学院長を中心として教師が「デブ」「死ね」などと暴言を繰り返す一方で指導を拒否し、生徒たちは追いつめられていく。2019年には男子学生が自殺した。信じ難い事実が取材によって明らかとなり、第三者委員会が設置されて、何件かがパワハラと認定された。

しかし、それでも、当の副学院長はパワハラを受けた生徒に謝ろうとはせず、指導が強すぎただけといった言葉を繰り返す。世の中を知らない教師たちと、踏み込んで問題を対処しようとしない北海道という役所。いまどき、こんなことがあるのかと思わせる実態が暴かれていくが、しかし、統一教会の実態が隠されたままだったことを考えれば、江差高等学院だけにとどまらないのだろう。

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