打倒プーチンに執念も「勝利条件が高望みすぎる」ウクライナの苦悩。戦争調停の現場で今何が議論されているか

 

プリゴジン搭乗機撃墜につながるプーチンの発言

ではロシアサイドにとっての“勝利”とはどのようなものなのでしょうか?

以前、「プーチン大統領は勝つことはなくても、決してこの戦争において負けないように戦略を変えている」とお話ししたかと思いますが、今はどうなのでしょうか?

ロシア政府そしてプーチン大統領にとっての元々の勝利のイメージは【ウクライナの統治形態を破壊し、親欧米の姿勢に傾きがちな勢力を壊滅したうえで、ロシアの勢力圏に収める。そして対欧州・アメリカに対する防波堤・緩衝地帯に変えること】というものだったようです。

ゆえに侵略当時から使っている特別軍事作戦の意味するものは、ウクライナ東部の編入という限定的なものではなく、実際にはウクライナの国としての存在を無にしてロシアの一部に“戻す”ための作戦と表現できるかもしれません。

その目的は、戦闘が膠着化し、欧米諸国とその仲間たち、国連などを敵に回すことになった現在でも変化していないように思われます。

今週、南アフリカ共和国で開催されたBRICs首脳会議には、プーチン大統領は物理的に出席できませんでしたが、オンラインで参加し、「世界は反欧米勢力が上回っていること」「BRICs加盟国を拡大することを強く支持すること」といった内容を訴えかけ、BRICsの首脳たちの同意を取り付け、世界の分断の様とロシアの力がまだ弱まっていないことを内外にアピールしました。

BRICsの場での彼の“もう一つ”の発言を報じるメディアはないですが、プーチン大統領は「裏切り者をロシアは決して許さないが、よき理解者に対しては何があっても国を挙げてサポートする」と述べ、また「ウクライナはロシアの温情を裏切り、西側の金に目がくらんで欧米の手先となった。この状況を正し、裏切り者はどのような運命をたどるかを示すのが私の役割」といったような発言も行ったようです(これが23日のスロビキン司令官の更迭、そして24日のプリコジン氏が搭乗していたとされる航空機の墜落・撃墜につながるのでしょうか?)。

停戦の話が浮かんでは消える状況が続き、また時折、ロシアが停戦協議のテーブルに就くための条件なるものが報じられますが、これらの発言を見る限り、態勢立て直しのための一時停戦は可能かもしれませんが、休戦も終戦もプーチン大統領のオプションに入っておらず、ウクライナが国家としての体をなさない状況になるまで、とことん戦う覚悟が示されていると理解します。

しかし、巷で叫ばれる“ロシアによる核兵器使用”の可能性ですが、ウクライナは自国の一部であるとの理解が成り立っている限り、自国を居住不能にするような選択肢を取ることはないと考えます。同じことはベラルーシにも言え、ルカシェンコ大統領がひっきりなしに「ベラルーシの国家安全保障上の懸念が生じた場合には、防衛目的で核兵器使用もあり得る」との発言をしていますが、その核兵器はロシアがベラルーシとの合意上、配備しているものであり、ロシアはルカシェンコ大統領およびベラルーシにその発射権限を与えていません(プーチン大統領の頭の中では、ほぼ間違いなくベラルーシもロシアの一部との理解でしょうから)。

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print
いま読まれてます

  • 打倒プーチンに執念も「勝利条件が高望みすぎる」ウクライナの苦悩。戦争調停の現場で今何が議論されているか
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け