後がないウクライナに残された「勝利への2つだけの手段」
長くなりましたが、ロシア・プーチン大統領にとっての“勝利”が何を指すかと言えば、それは【ウクライナのロシア化】であり、【ウクライナをはじめとするロシアの勢力圏からNATOに代表される欧米諸国の影響を排除すること】です。
容易に叶う勝利でないことは分かっていますが、ロシアは対ウクライナ戦争を長引かせ、NATOに支援疲れを起こさせ、同時に“いつ何時、自国もロシアとの戦争に巻き込まれるかもしれない”という見えない恐怖に晒し続けることで、ロシアの周辺にいるNATO加盟国と英独仏イタリア、そしてアメリカとの間に心理的な大きな深い溝を作り、戦争の影を使って、じわりじわりと心理的に追い詰め、NATOの中東欧からの“追い出し”を画策しているように見えます。
このような目的・勝利の条件が設定された背景には、2022年2月24日の侵略に至るまでの間に、プーチン大統領とその側近たちが英国政府やドイツ、アメリカ、そしてフランスの大統領や国防長官との“話し合い”を通じて、「NATO各国はロシアと戦争をする気もなければ、その勇気もない」ことを確信し、「ウクライナは遅かれ早かれ孤立する」と判断したからだと考えられます。
その孤立はまだ起きていませんが、ウクライナによる対ロ反転攻勢が遅々として進まず、まだNATO各国がタブーとしてウクライナに釘を刺していた“ロシア本土への攻撃”をウクライナが実行してしまっている状況に直面し、NATO諸国の対ウクライナ支援は、軍事的なものから次第に外交的なものに性格を変えだしていることは、今後のウクライナの運命を考えると、あまり好ましい状況ではないと考えます。
「ウクライナはロシアに奪われた領土を諦めて、即時停戦に向かうべき」というNATO事務総長補佐官の“つぶやき”を先日ご紹介しましたが、次第に同様の空気が醸成されているのは、どうも間違いないようです。
そしてそれは、時を少しだけ遡ったNATO首脳会議における“ウクライナのNATO加盟への実質的NO”にも見えます。
「ウクライナが停戦を先に持ち出すことはないことは分かっている。でも、戦争状態にある国を加盟させることで、NATO加盟国が新たな安全保障上のリスクを追うという選択肢はない。つまり、ウクライナのNATO加盟は非現実的である」ということになります。
ではウクライナは、その内容がどのようなものであったとしても、“勝利”を収めるためにどのような手段を取るつもりなのでしょうか?
1つは、報じられているように、ウクライナ独自の兵器開発を進め、自前での対抗を実行して、ロシアを押し戻すことですが、果たしてこれがNATOから供与された最新鋭の装備と作戦上、協働し、効果を増幅できるのかは疑問です。
2つ目は、NATOからの非難を受けても、“進むも地獄退くも地獄”ならば、思い切ってロシアの心臓部に自ら攻撃を仕掛け、ロシア国内に恐怖を引き起こし、内側からプーチン大統領の失脚を狙うことです。
ただこの作戦は、十中八九うまくいきません。
先のプリゴジンの乱の際、最強のワグネルの裏切りはプーチン大統領の権威の失墜の現れとして、国内外の反プーチン勢力が勢いづきましたが、この乱は、プーチン大統領に絶対的な忠誠を誓うプリコジン氏がプーチン大統領に対して「前戦で犠牲を出しながらもロシアの勝利のために貢献している我々のことをもう少し考え労わってくれ」という“異議申し立て”に過ぎず、プーチン大統領の権威を傷つけるものではないからです。
どちらかというと、プーチン大統領の権威が絶対であることを再確認し、彼を支えている利権集団(ショイグ国防相、ゲラシモフ統合参謀本部議長、そしてプリコジン氏)の間の利害調整の要請と見るべきでしょう。
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