「一枚岩ではない」イーロン・マスク氏とトランプ氏の関係
次にイーロン・マスクとの関係ですが、これはかなり複雑になっていると考えられます。
複雑とは、つまりトランプとは「単純な一枚岩ではない」ということです。具体的には5つの点が指摘できます。
1つは、マスクの環境思想です。マスクはトランプと組んだからといって、温室効果理論を放棄したわけではありません。排出ガス極小化を建前とするテスラというEV事業の基本コンセプトを捨てるわけではないのです。補助金カットなどは、ライバル潰しになるので支持しているようですが、基本の部分での世界観はかなり違います。
2つ目は、マスクが期待されている政府効率化のプロジェクトです。マスクは、一緒に担当するヴィヴェック・ラマスワミ(インド系のIT創業者、元大統領候補)とともに、過激なDXと過激な規制緩和で、連邦政府のコストをバッサリ切るとしています。基本的にはトランプ路線に沿ったものですし、共和党の元からの理念である小さな政府という方針にも合致はします。
ですが、マスク=ラマスワミの目指している政府のリストラというのは、非常に過激であり、個々に地元と結びつきを持っている共和党の「普通の上院議員」や「普通の下院議員」の「利権」もカットしてしまいます。ということは、クラシックな共和党政治家の議席を危うくする可能性があるわけです。
そうなると、とても議会の協力は得られそうもありません。その場合に、トランプは平気でマスクを切れるのか、難しい局面が来ると思います。
3つ目は、安全保障の関係です。マスクの事業の中で、Ai関連やテスラは、どちらかといえば普通のテック企業です。ですが、宇宙開発を行う「スペースX」や地球の周囲に人工衛星ネットワークを張り巡らせた「スターリンク」などの事業は、ダイレクトに安全保障に直結します。
例えば、スマホを使っている個人の居場所を地球上で特定するなど簡単です。これはダイレクトな例としては要人暗殺に使ったり、「いてはいけない場所」にいた事実を特定して脅迫するなど、政治的、軍事的に応用が可能です。またロケット技術はそのまま、核ミサイル技術に転用できます。さらに宇宙空間を舞台にした戦争にも直接関係します。
トランプが、そのようなマスクの存在を100%庇護するというのは、例えばNATOとの関係においても、中国やロシアとの関係にしても、簡単ではありません。
4つ目は、中国との関係です。テスラにとって、中国は大事な主要市場ですし、巨大な規模での現地生産の拠点でもあります。さらに言えば、AV(自動運転車)技術のパートナーでもあります。そのように、中国と相互依存関係にあるテスラの存在は、トランプの政策展開次第では問題になるかもしれません。