超円安による“一種の幻視”だ。日本は「輸出が3年連続で過去最高を更新」のニュースに浮かれている場合ではない

 

石破首相ができたはずだった「同盟国らしい忠告」

そのようなモノづくり精神に基づく高付加価値製品で世界をリードし、とりわけ東アジアにおいて生産機械・高度部品~中間複合部品~消費財大量生産の国際的供給チェーンを築き上げることが日本の輸出戦略でなければならなかったが、円安による仮初の利益膨張でトヨタを喜ばせて株価沸騰の旗振りを演じさせるといった馬鹿馬鹿しいアベノミクスの迷妄が、この国がまともな道を歩むことを妨げたのだった。

もし政治がそこに着眼していれば、例えば今次の日米首脳会談にしても、小手先のお世辞でトランプの気紛れ攻撃を回避するといったみっともない対応とはならなかっただろう。

例えばの話、米国の数少ない輸出品であるボーイングの旅客機について、

  1. 現行モデルの787の機体・翼の重量比で半分が東レ製の世界最先端の品質の炭素繊維を用いた複合材料で出来ていて、またそれ故にその機体・翼のほとんどは名古屋市を中心とする先端工業ゾーンで三菱重工業など日本企業が製作していること、
  2. それを含めてイタリア、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリア、韓国、中国などが生産分担して初めてボーイングの生産が可能になっていること、
  3. それらの中間部品や半加工機材が最終的に米国の工場に集められて組み立てられる際に「ネジの締め忘れ」とか初歩的なミスが多発して、ボーイング機の度々の事故のほとんどは「米国人従業員の無能」が原因となっていること、

――などを、トランプに説いて聞かせるべきであったろう。それら全世界で作られている機材や部品にも「関税」をかけるのですか?日本から炭素繊維が行かなくなって、どこの米国企業が同じものを作れるのですか?ボーッと生きてるんじゃねえよ、お前ら!と言ってやればよかったのですよ。

航空機の超精密部品を加工するには、世界最先端のコンピュータ制御の5軸マシニングセンタが必要だが、その工作機械を作れる会社は米国にはなく、日本かドイツから買うしかない。それにも関税をかけるんですか?

仮に自分で関税分を上乗せされた高額代金を払ってマシニングセンタを手に入れても、米国にはそれを操れる熟練労働者もメンテナンスが出来るエンジニアもいないのだ。石破にちゃんとした輸出戦略の思想があれば、それを背景にトランプに「そのことを、もう一度、胸に手を当てて考えてみるべきだ」と同盟国らしい忠告ができたはずなのに、惜しいことをしたのである。

■《参考資料》INSIDER No.609 2012/01/23を転載――(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年2月24日号より一部抜粋・文中敬称略。参考資料「野口悠紀雄の『輸出立国終焉』論は間違っている!」を含む続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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