自称「コメ担当大臣」小泉進次郎が“爆死”覚悟で突っ込んでいくべき本丸は日本農政「魔のトライアングル」だ

 

このままでは死滅に向かうことになる日本のコメ作り

さらに困ったことに、備蓄米の全部がスーパーなど小売店の店頭に並ぶのではなく、卸からまとめて外食・中食業者や学校・病院などの給食業者に回る分も少なくなく、その分は「下がった」という消費者の実感には繋がらない。またその分が多くなれば店頭に行き渡る分は少なくなって、「進次郎の2,000円台の米はどこにあるんだ?」と怒り出す客も増えるかもしれない。

結局、こればかりは拙速は禁物で、消費者目線だけでなく生産者目線も五分五分に取り入れた上で、流通経路の複雑さをも考慮して、慎重に進めるしかないと思われるが、進次郎はそう思ってはいないようだ。消費者も、ただ単に「安ければ安いほどいい」と言っていて済むことなのか余程考えなければならない。

生産者目線をきちんと位置付けなければならないのは当然で、東京商工リサーチの調査では、2024年の米作農家の倒産・休廃業は89件で、13年の統計開始以来の最多を記録した。

米の小売価格が過去最高に達しつつある裏側で、米作農家の倒産・廃業も過去最高というのはどういうことかと言いえば、米の作付け面積=約129万ha(2020年)の約半分=49%を担っているのは5ha未満の零細・小規模農家で、その中の平均的な1.8haの農家の農業所得はマイナス25万7,000円の赤字(23年)。地域の担い手となるのはその上の作付け面積5~10haクラスの農家で、15%を耕しているが、その所得も100万円前後でしかない(日本農業新聞5月24日付)。

そもそも赤字かそれに近いギリギリのところで維持されていた米作に、長年に渡る米価の低迷と生産資材の急激な値上がり、それに高齢化も重なって、いよいよ持ち堪えられないことになってきたのであり、このままでは日本の米作りそのものが死滅に向かうことになるだろう。

2018年に「減反」という名の米の生産調整策が廃止された後では、農水省は直接には米の流通を管理していないが、同省の経営局が独自の手法で推測した需給予測に基づき「生産量目標」を提示し、「水田フル活用」の美名の下、主食用の米を作らないことに対し補助金を与えるというアクロバット的な策を用いて、農家を辛うじて生き残らせつつ、零細・小規模農家が順次絶滅して大規模法人に農地が集約されていくことを期待してきた。

その前提は、米の需要が年々10万トンずつ減少していくのは避けられないという諦めに似た長期見通しで、そこから推測される需要のギリギリまで供給を絞るのだが、米をはじめとする農業は天候に左右されるところが大きく、しかも例えば平年より1割の増産で3割の価格下落が起きるといった変動が激しく、工業製品のように需給バランスだけで予想を立てて機敏に対応することが難しい。

だから、需給のギリギリのところへ農家を誘導していくという農水省の考え方は机上の空論で、予想外のことがいくつか複合すると今回のようなことが起きて制御不能に陥るのである。

この机上の空論を専門にしているのが農水省の主流を占める、なぜか東京大学法学部出身のサークルで、その拠点が同省の経営局。その局長を経て事務次官に上がるのが同省のメインの出世コースとなっている。

この人たちの全部ではないにしても多くに共通するのは農業への無知ととりわけ零細・小規模農家への軽蔑、そして財務省の中心を占める東大法学部出身者へのコンプレックスで、それが「農水省が率先して農民を絞め殺す」という馬鹿げた農政を産んできた。小泉進次郎が本当に改革派たらんとするなら、そこへ突っ込んで行って爆死する位の覚悟が必要で、軽々しいパフォーマンスに浮かれている時ではない。

(メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2025年5月26日号より一部抜粋・文中敬称略。ご興味をお持ちの方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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