なぜトランプはベネズエラ侵攻のカードを切ったのか?米軍という「世界最強の軍事力」の使い方を理解してしまった“西半球の独裁者”

 

大きな恨みを残す「ベネズエラ軍事侵攻」という愚策

ただ、これまでとは違い、露骨にアメリカの軍事力を用いる過激な方向に傾いているように見え、今後、世界をより危険に晒し、無法状態を強める恐れを感じます。

その動きがより鮮明になったのが、1月3日に行われたベネズエラへの奇襲攻撃とMaduro大統領夫妻の連行・拉致です。

1月3日に米陸軍特殊部隊のデルタフォースと海軍第160特殊作戦航空連帯(通称“ナイト・ストーカーズ”)によるベネズエラへの奇襲攻撃が行われ、大統領夫妻が捉えられてアメリカに連行されるという衝撃の事件が起きました。

攻撃前にサイバー攻撃によって首都カラカスを停電させ、真っ暗闇の中を米軍のヘリが飛び交い、大統領夫妻を確保するという作戦は、アメリカ側に全く犠牲者が出ることなく作戦を遂行したという点では軍事的には大成功と言えますが、国際政治および倫理上は大きな恨みを残す愚策だったと考えます。

ベネズエラ国防省および内務省によるとこの攻撃で100名以上が死亡し、うち40数名はキューバ政府から派遣されていた軍事顧問団だったとのことですが、その他に攻撃に巻き込まれた一般市民も犠牲になったと言われています。

内相が何度も公言するように、今回の事件を受けてベネズエラ国民の感情をさらに反米にすることになりましたが、このベネズエラへの奇襲攻撃と国際法を一切無視した(軽視した)アメリカの行いは、中南米諸国に暗い影と極度の緊張を与えることになっています。

すでにトランプ大統領自身がSNSなどで発言していますが、アメリカの威嚇の矛先はコロンビアのグスタボ・ペドロ大統領や、メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領にも向けられ、「米国への麻薬の流入を阻止する行動に協力しないのであれば、Maduroと同じような扱いを受けるだろう」という不吉な脅迫が行われています。

この“米国への麻薬の流入を阻止する”というのが、今回、トランプ大統領が用いた“対ベネズエラ攻撃の正当化要因”の一つですが、果たしてこれはどれほど事実に基づいているでしょうか?

実はベネズエラからアメリカへの麻薬の流入というのは、国連で麻薬対策の中心的な役割を担っているUNODC(国連薬物・犯罪事務所)やCND(国連麻薬委員会)によると、トランプ政権が主張しているほどの大量のケースではなく、さらにベネズエラの麻薬密輸組織が扱っているのはほぼ全量が隣国コロンビアから米国に密輸されるコカインであり、ベネズエラはあくまでも中継地としての役割しか果たしていません。

また合成麻薬フェンタニルについては、中国が主な産地であり、それがメキシコを経由して米国に密輸されているというのが実際の流れであり、このフェンタニルの密輸にはベネズエラは“オフィシャルには”関与していません。

もし本当に“麻薬”問題が今回の奇襲作戦の正当化要因であるならば、ベネズエラへの攻撃と大統領の連行という荒業は説明できないのではないかと考えます。

あえてベネズエラと麻薬との関わり、そしてMaduro大統領と麻薬との関わりを見るのであれば、大統領を含む政権幹部が“太陽のカルテル(Cartel de los Soles)”と呼ばれる蜘蛛の巣のような組織を政府内および国軍内に張り巡らし、麻薬密輸の仲介から得た金銭を受け取っているという確たる証拠がありますが、果たして主権国家を攻撃し、国家元首を拉致・連行するほどの正当性を持つかどうかは非常に疑わしいのではないでしょうか(どちらかと言うと、バイデン政権時に受け入れたベネズエラからの経済難民の中に紛れて米国に入国したと言われている麻薬カルテルのトレン・デ・アラグアが、すでに米国内16の州で拠点を築き、中南米および中国からの麻薬の流入・密輸を助ける組織的な基盤が出来ていることの方が、はるかに深刻だと考えますが、これについても、これ以上は言及を避けておきたいと思います)?

この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ

初月無料で読む

print

  • なぜトランプはベネズエラ侵攻のカードを切ったのか?米軍という「世界最強の軍事力」の使い方を理解してしまった“西半球の独裁者”
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け