なぜトランプはベネズエラ侵攻のカードを切ったのか?米軍という「世界最強の軍事力」の使い方を理解してしまった“西半球の独裁者”

 

アメリカとベネズエラの交渉で想定される第1のシナリオ

そのデルシー・ロドリゲス副大統領(暫定大統領)は、自身は弁護士資格を持ち、これまでに外務大臣のほか、通信情報大臣、経済財務大臣を歴任し、2018年からは副大統領兼石油大臣を務めており、兄のホルヘ・ロドリゲス氏(元副大統領)は国民議会議長を務めていて、兄弟でベネズエラ政界のトップを務めています。

外交があまり得意でないMaduro大統領に代わり、ベネズエラの対外政策を担うことも多く、弁護士および外交官としての背景から、非常に交渉に長けていると言われている人物です。

チャベス元大統領に心酔し、2003年に国会議員になった後、チャベス政権の大統領府長官を務め、生粋のチャビスモ(チャベス氏の政治思想である反米・社会主義、ラテンアメリカ統合主義)の担い手とされています。

今回、Maduro氏がアメリカ政府に拘束(拉致)・創刊されたことを受け、1月5日付で暫定大統領に就任していますが、実質的な強力なチャビスモであり、かつMaduro政権のナンバー2であることには変わりなく、思想及びこれまでの人権侵害に関わる行動や麻薬カルテルとの関係などをベースに、2018年から米国からの制裁対象になり、2019年からはコロンビア、そして2020年以降はEUの制裁対象とされ、現在、それらの国々への入国が禁止されているという側面もあります。

生粋の社会主義者であり、反米主義者として知られ、チャベス・Maduro政権下で横行した人権侵害や誘拐事件、そして麻薬取引に係る問題に中心的に関与していると言われています。

そのような背景をもつロドリゲス氏ですが、今回、ベネズエラ政府を代表して、米国政府と交渉に臨むことになっていますが、果たしてどのようなシナリオがあり得るでしょうか?

1つ目のシナリオは【ベネズエラが米国から提示される条件を受け入れて、政治体制および治安の安定化に努める】というものです。

アメリカ政府(トランプ大統領)は、ロドリゲス副大統領を暫定大統領として直接の交渉相手として認め、ルビオ国務長官との交渉に臨むことを要請しています。

暫定大統領就任当初は、「Maduro大統領のみが憲法上選出された正当な大統領だ」と公言し、一刻も早い釈放と帰国を強く訴えかけ、アメリカと直接対峙する姿勢を示していましたが、今は「国際法の下、外交と対話を通じてベネズエラの安定化に向けて米国と協力する」という融和姿勢に転換したように見えます。

しかし、あまり報じられないのですが、実際には「米国との対話および協力については、アメリカ政府がベネズエラ政府に対して命令するような形式ではなく、あくまでもequal standing、つまり対等の立場で行う」という条件を突き付けていますが、これは恐らくアメリカ側が受け入れることができない条件だと思われます。

そのような中、巧みに譲れるものは迅速に譲り、アメリカ側が何かを獲得している、またはベネズエラ政府が妥協しているように見せつつ、肝心なところは譲らないという交渉術を実施しています。

例えば、石油権益について「3,000万バレルから5,000万バレル程度をアメリカに渡す」というニュースが流れましたが、これは新規のものではなく、国営石油会社の所有権強化の動きによって、ベネズエラ国内に残されたと言われている(より正確にはベネズエラ政府によって取り上げられていた)アメリカ系企業(主にシェブロン社)の既所有相当分を“返す”ことを意味するに過ぎません。

トランプ大統領およびルビオ国務長官が求めている“ベネズエラの石油権益をアメリカの管理下に置き、その収入はアメリカが管理し、いずれベネズエラ国民に還付する”という要求については、まだ交渉さえ始めていないのが実情のようです。

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