「トランプさえ退場すれば世界が正常に戻る」は幻想。国際社会に混乱を招いた犯人は誰なのか?

 

絵空事ではないアメリカによる「グリーンランド奪取」

そして、そこに1点加えるとすれば、北極海の海底資源はこれまで開発が非常に困難とされてきたこともあり、ほぼ手つかずの状態が続いていたのですが、北極海の氷が溶解することで開発が可能になり、アークティック・カウンシルの加盟国が挙って海底資源の権益を握ろうと競争しています。

そこに北極海には面していないにもかかわらず、新北極海国として乗り込んできたのが中国です。

そしてグリーンランドはその北極海に存在する非常に大きな島で、北極海海底と同じく、非常に豊富なレアアースと地下資源が埋まっていると言われています。中国はそれを見越して北極海における権益を獲得すべく、近年、活動を活発化させているわけです(投資額が一気に上がっており、法的に認められているものの、実際にグリーンランドを自治領として生存させるベースになっているのが、中国からの投資だと言われています)。

よく動画のパロディーでトランプ大統領が「グリーンランドをロシアと中国に取られるようなことになれば、中ロがアメリカの隣国になる」と発言したことに対し、コメンテーターが「いや、すでにロシアと米国はベーリング海を挟んで隣国ですが…」と揶揄するものがありますが、太平洋側の隣接(アラスカあたり)だけでなく、もしグリーンランドがロシアの影響下に置かれるようなことになれば、アメリカ大陸の両岸からロシアの影響力が及ぶとも言えますし、仮に中国がグリーンランドを影響下に置くと、北米全体を防空レーダー網の範囲に収めることも物理的に可能となり、それはアメリカの国家安全保障上、由々しき問題と考えるのは、荒唐無稽なお話し・妄想ではないと言えます。

もちろん、購入するとか軍事的に手に入れるというのは、手段的にいかがなものかと考えますが、グリーンランドにご執心なのは全く“ただの気まぐれ”とも言えないのではないかと思います。

このような状況に陥ったのは、もちろん気候変動の仕業でもあるのですが、欧州各国が中ロに接近し、その間、グリーンランドを中心とした北極海岸の守りを怠ったことで、ロシアと中国の北極海におけるプレゼンスを高めることになったことも一因と考えられ、トランプ政権のアメリカは欧州の“同盟国”に対して、ちょっと荒い脅しを通じて、備えを固めるように最後通告を行ったのではないかと見ています。

ちょっとアメリカの意図を好意的に見過ぎだとの批判を受けそうですが、もしこれで欧州がグリーンランドをはじめ、北極海の守りを固めるような動きに出なかった場合には、アメリカによるグリーンランド“奪取”も絵空事ではないような気がします。

ベネズエラへの侵攻も、グリーンランドの領有への意欲を新たにしたのも、レアアースや原油へのアクセス、エネルギー・資源市場に対する影響力の確保と産油国・資源国の価格操作力を無効にするという戦略的な思考に基づくものではあると思いますが、常にその対岸には中国の影響力があり、その増大と拡大をマルチ・フロントで防ぎたいという一貫した意図が見えてきます。

今年、米中首脳会談が数回開催される見込みと言われていますが(初回が4月のトランプ大統領の訪中)、トランプ政権側は、中国を表立って刺激することは避けるそぶりを見せつつ、交渉(ディール・メイキング)において少しでも有利に立つために、世界における中国の影響力の拡大を阻むことで、プレッシャーをかけ続けているのだと考えています。

ロシアのプーチン大統領もこのゲームに参加しようと企み、また欧州のリーダーたちも機会をうかがっているようですが、米中のように現在の国際紛争や案件のいたるところで対峙し、パワーゲームを静かに、でも緊張を切らすことなく、戦い続けることはできていないようです。

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