トランプのイラン攻撃を習近平はどう見ているのか?中国が警戒を強める米“スパイ工作”の巧妙

 

習近平が警戒する「高官の寝返り」と「政権への不支持の広がり」

但し、その警戒心は巷間言われるような「イランで中国製の防空システムが機能しなかった」といったことに向けられたものではない。そもそも防空システムの話題では、その前提としての事実誤認が多過ぎて話にならないのだが、そこは一先ず横に置いておこう。

習政権の一番の警戒は、いま意外に思うかもしれないが国内の官僚腐敗に向けられている。

この一年ほど軍の幹部をはじめ党・政府の大物官僚たちが次々と落馬するニュースが相次いで報じられてきたが、その激しさはかつて反腐敗キャンペーンが最も盛んだった頃を彷彿とさせる。翻ってみれば、これは政権内部が緩んでいることの証左でもあるのだ。

ベネズエラ攻撃もイランのトップへのピンポイント攻撃も、作戦が機能した背景には米情報機関の正確なインフォメーションがあったことは言うまでもない。つまりヒューミントの力だが、これを機能させるための前提条件は高官の寝返りだ。

中国がなぜ、日本では悪名高い「反スパイ法」を制定し徹底した取締りを行ってきたかといえば、これを防ぐためだ。

そしてもう一つの問題が国民の政権への不支持の広がりだ。政権に不満を抱えた国は必ずアメリカの工作に付け込まれる。イラン攻撃の直前に国内で大規模な反政府デモが仕掛けられたのは記憶に新しい。

国民が政府に不満を持つのは、一に生活苦だが、同じくらい重要なのが政治家や官僚など有力者に対する不信である。

とくに権力を利用し濡れ手に粟の利益を得ていると疑われれば致命的だ。

今年3月31日、習近平国家主席が雑誌『求是』に発表した「正しい業績評価を確立し、それを実践する」の中では、そうした官僚に対する戒めが列記されているのだが、これこそ政権が抱く危機感の象徴だ。

発言録の最初にはこんな言葉がある。

「我々は信条について、これまで様々な言葉で語ってきたが、結局のところ『人民のために奉仕する』ということに尽きるのだろう。(中略)古くから、『君主の禄を食む者は、君主に忠を尽くす』と言う。現代においてそれは、『人民に奉仕する』ことにほかならない」

これは日本にはほとんど伝わらない「中国式民主」の一つの形だが、単にきれいごとを並べているわけではない。

これまで書いてきたように、背後には危機感があり、直近ではそれはアメリカに付け込まれるスキを埋めるためだが、そもそも国民との信頼関係は、共産党が依って立つ力の源泉でもあるのだ。

第一次整風運動の歴史もそうだが、国共内戦時、戦力で圧倒的に勝る国民党軍が、兵力でも装備でも大きく劣る共産党軍に敗れたのは、国民党の腐敗体質に嫌気がさした国民が共産党を熱烈に支持したからだ。その勝利の理由を共産党の指導層はそのDNAに刻み込んでいる。

習主席が繰り返す「初心を忘れず」はまさにこのことを指しているのだ。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年4月5日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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