【1.調停者の椅子が空いている-約束を預かる器が弱るとき】
第81回国連総会の一般討論は9月22日に始まりました。今年のテーマは「信頼の回復、変革の管理:すべての人のために成果を出す国連(Restoring trust, managing transformation: a United Nations that delivers for all)」です。
私には、今年ほどこのテーマの重さが際立った年はないように感じます。
まず目を引いたのは、欠席者の顔ぶれでした。習近平国家主席、プーチン大統領、モディ首相はいずれもニューヨークに姿を見せていません。習近平国家主席は総会ではなく、9月24日のワシントンでの米中首脳会談を選びました。主要国が多国間の舞台より二国間の取引を優先している姿が、日程にそのまま表れています。
もちろん、国連が何もしていないわけではありません。9月23日には、グテーレス事務総長の主催で、気候行動と公正な移行に関するハイレベル会合が開かれました。国連自身が「気候サミット2026」と位置づける会合です。
問題は、会合が開かれるかどうかではありません。会合で確認された言葉を、各国の行動に変える力がどこまで残っているのかです。
「会合はある。しかし、実行力が伴わない」
これが、今年のニューヨークで私が最も強く感じたことでした。
グテーレス事務総長は9月22日、事務総長として最後の一般討論演説に臨みました。「世界の断層は広がっている」と述べ、「相互依存の上に築かれた世界」をあらためて訴えています。そのうえで、大国に向けて「その力は、それほど『超』ではない」と釘を刺しました。
超大国という言葉を逆手に取ったこの一言に、私は10年間、大国の拒否権と自国第一主義に阻まれ続けた人物の、静かな抵抗を感じました。
グテーレス事務総長は、国連難民高等弁務官を2005年から2015年までの10年間務め、2017年に事務総長に就任した人物です。ポルトガルの首相も務め、国連システムにも精通した、まさに適材適所の人選でした。
しかし、在任中に直面したのは、自国中心的に振る舞う常任理事国、コロナのパンデミック、そして常任理事国自身が引き起こす侵略戦争でした。
期待された調整機能とモラルリーダーとしての役割を十分に果たす機会を得られなかったというのが、私の率直な印象です。違う時代に事務総長になっていれば、もっと大きな仕事ができた人だったのではないかと、個人的には残念に思います。
その「時代」の荒れ方は、数字が教えてくれます。
スウェーデンのウプサラ大学の紛争データプログラムが6月に発表した集計によれば、2025年の国家間紛争は8件に達しました。2023年の2件から2年連続で倍増し、1946年に集計を始めて以来の最多です。国家が当事者となる紛争も過去最多の65件にのぼり、組織的な暴力による死者は約24万4,600人と、1994年のルワンダ以来2番目の多さでした。
「紛争が増えれば増えるほど調停者が必要になるはずなのに、その調停者の力が最も弱っている」
今号で考えたいのは、この逆説です。
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