【2-4.メッカ共同防衛協定の「最初の試験」】
今週もう一つ試されたのが、中東の新しい同盟の信頼性です。
8月7日、サウジアラビア、パキスタン、トルコの3カ国は聖地メッカで共同防衛協定に調印しました。NATO条約の第5条(集団防衛)にならい、「1カ国への武力攻撃は全加盟国への攻撃とみなす」という条項を持つ協定です。
協定の調印から約1カ月、サウジアラビアは繰り返し攻撃を受けました。しかし、パキスタンは攻撃を非難したものの、軍事介入は表明していません。トルコも連帯の声明を出しただけで、航空機も部隊も送っていません。SNS上では「抑止しない防衛協定は、防衛協定ではなくプレスリリースにすぎない」という辛辣な批判が広がりました。
トルコのフィダン外相は9月19日、トルコのテレビ局の取材に対し、サウジアラビアから要請があれば、特に技術面での軍事的な支援に応じるのに問題はないと述べる一方、サウジアラビアが米国とイランの紛争に引き込まれるべきではないとも語っています。
9月21日にはニューヨークで、「NATOも第5条を発動したのは一度だけだが、誰もNATOを張り子の虎とは呼ばない」「協定はまだ始まったばかりだ」と反論しました。支援には正式な要請と協議が必要だという説明です。
私は、トルコがこの協定を「軍事同盟」というより「政治的な保険」として位置づけていることの表れだと見ています。
問題は、その曖昧さを相手がどう読むかです。
交渉理論では、コミットメントの信憑性は、それを守らなかったときに自分が払うコストの大きさで測られます。「攻撃されたら必ず反撃する」と言いながら、反撃しなかったときの代償が小さければ、相手はその約束を割り引いて受け止めます。
オバマ政権がシリア内戦で化学兵器の使用を「レッドライン」と宣言しながら、それが越えられた後も軍事行動を見送ったことは、その典型的な例です。
少なくとも、協定の締結後もフーシ派による攻撃は続いています。問題は、その事実をフーシ派がどう計算しているかです。
抑止とは、相手の頭の中に「割に合わない」という計算を植え付けることです。メッカ協定はいま、最初の、そして最も重要な試験を受けています。
同じことは、G7にも言えます。
G7外相会合は9月21日、フランスを議長国として「バベルマンデブ海峡と航行の権利・自由に関する声明」を出し、フーシ派が海峡に迫っていることを「容認できない脅威」と断じました。イエメンとサウジアラビアへの「完全な連帯」を表明し、イランにフーシ派への武器支援をやめるよう求めています。しかし、声明の言葉がどれほど強くても、それを海の上で裏付ける手段が示されなければ、フーシ派の計算は変わりません。
その一方で、フランスのマクロン大統領は9月24日、ヤンブーを守るために兵士とレーダー、防空システムを派遣すると表明しました。「紛争に関与するためではない」という説明付きですが、共同防衛を約束した協定の加盟国より先に、協定の外にいる国が部隊を送ると表明したことになります。
外交の現場では、声明文そのものより、その声明を破ったときに誰が何を失うのかを見ます。
調停官として私が紅海で見ているのは、戦力の差ではありません。フーシ派が「まだ失うものがある」と考えているかどうかです。
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