「今までで一番成功したG7」は本当か?エビアン・サミットが露呈させた、もう隠せないトランプと欧州の決定的な亀裂

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世界はいま、ロシアもウクライナも、イスラエルもイランも、そして中国もアメリカも、誰一人として決定的な勝利を得られない「不安定性管理の時代」へと突入しつつあります。G7サミットが露わにした亀裂、米・イラン合意に潜む危うさ、台湾周辺で進む中国の既成事実化——これらは互いに連動し、世界を不安定にしています。メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の「無敵の交渉・コミュニケーション術」』では、著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、今週の国際情勢の裏側を読み解き、誰も勝てない時代に本当に必要な力とは何かを問いかけます。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:誰も勝てない時代の到来 戦争の時代から“不安定性管理”の時代へ

誰も勝てない時代の到来。戦争の時代から“不安定性管理”の時代へ

【誰も勝つことが出来なくなった世界】と聞いてどのようなことをイメージされるでしょうか?

これまでこのコラムでも、国際協調に基づく戦後国際秩序が崩壊し、 今では【力あるものが弱者を制する“力による支配”が幅を利かせている】と、現在の混乱する国際情勢を描いてきました。

アメリカは、トランプ大統領というリーダーの個人的な資質もあるのでしょうが、力を盾に縦横無尽に行動を起こし、 言行不一致のダブルスタンダードでさえ押し通して、至る所でフリクションを起こしています。 “平和の使者”を自任してアメリカ大統領に返り咲いたトランプ大統領ですが、 就任2年目のトランプ外交は、力による支配が特徴となっています。

ロシアによるウクライナ侵攻も”力による支配“と”自国に都合の良いように解釈して、 強引な行動を継続する“特徴を見せていますし、中東地域各地におけるイスラエルの軍事行動も、 今や軍事力・経済力、そして技術力の面で一強となった”力による行動“と、国際社会との決別です。

しかし、今あげた3カ国は、果たして圧倒的な力を有することで、勝利を収めているでしょうか?

私の回答は否です。 多少強引でも事態を収めることはできず、自らが国際情勢における混乱要因になり、各国に不利益を与えているのが現実です。

今週、フランスのエビアンでG7サミットが行われましたが、その会議における駆け引きは、 その現実を改めて世界に示した会議だったように思います。

「結束の演出」と「亀裂の深化」

G7エビアン・サミットが示した現実は、 “結束の演出”と“亀裂の深化”が同時に起きているということです。

6月15日から17日にかけて、フランス東部エビアンで第52回G7サミットが開催されました。 マクロン仏大統領が議長を務め、トランプ米大統領、スターマー英首相、メローニ伊首相ら各国首脳が参集し、 日本からは高市首相が初めてのG7サミットに出席しました。

閉幕後、今回のG7会合を振り返り、トランプ大統領は『今までで一番成功したG7の一つ』 と上機嫌で語っていましたが、 その言葉を額面通りに受け取るのは危険です。

前年に引き続き、今回も包括的な首脳宣言は見送られました。 合意が地政学や重要鉱物など9分野の個別成果文書に留まったのは、 全体を束ねる共通の言葉を見つけることが今のG7にはもはや難しいという悲しい現実を反映しています。

トランプ政権発足以来、米国と他の参加国の意見が合わず、G7内の対立が露呈するリスクを避けるための“無難な着地点”として、 首脳宣言の見送りが“結果”として選ばれていますが、実際は、全首脳の合意の下、宣言を出さないことに合意したのではなく、 主だった内容において、G7内で意見が割れているから出せなかったという、 【結束の演出】と【亀裂の深化】という矛盾に満ちた状況が同時に起きていることを示しています。

特に顕著だったのが、ロシア・ウクライナ戦争の解決に向けた“対ロシア圧力強化を巡る温度差”です。

欧州各国は、ウクライナのゼレンスキー大統領からの要請もあり、対ロ制裁強化に前のめりでしたが、 日米はより慎重な姿勢を崩さず、ロシアに対する配慮も見える対応だったように見えます。

欧州にとってウクライナ問題とロシアによる脅威の増大は、 いつ自国に降りかかってくるかもしれない【すぐそこの安全保障上の脅威】であり、 トランプ政権の対ウクライナ支援への消極的な姿勢と米欧間の同盟関係の亀裂の拡大を受けて、対米依存の限界を痛感した今、 欧州諸国による自律的な安全保障が生存戦略と直結しています。

一方のアメリカにとって、ウクライナ問題の解決はあくまでも、いくつか存在する優先順位の一つに過ぎず、 カナダや日本にとっては、自国の安全保障に全く無関係ではないですが、まだ遠いところの戦争であり、 日本にとっては、中国による脅威の拡大や北朝鮮の核開発問題への対応が安全保障上の最優先課題です。

このG7諸国間の安全保障に対する関心の大きな異なりという“非対称性”の存在こそが、 もう隠し切れないG7の亀裂の根本にあるものです。

さらに重要な背景として、NATOの防衛費目標をめぐる問題が存在しています。 昨年(2025年)6月のNATO首脳会議では、トランプ米大統領の強い要求を受け、 NATO各国の防衛費目標がGDP比2%から5%へと大幅に引き上げられました。 これは、表向きは【欧州がトランプの要求を受け入れた“成果”】に見えますが、 裏を返せば、欧州各国が自ら防衛費を大幅に積み増さなければアメリカの安全保障コミットメントを維持できないという現実を、 公式に認めてしまったともいえます。

アメリカが欧州のNATO諸国に求める“防衛費GDP比5%”という目標が欧州各国に非常に重くのしかかっており、 それが各国の国内政治における不安定性を高める要因になっています。

例えば、財政再建が急務のフランスでは防衛費増額をめぐって議会が混乱し、政権崩壊のリスクすら取り沙汰されています。 フランスやドイツをはじめとするEU各国では極右・ポピュリスト政党が防衛費増額反対を訴えて勢力を拡大しており、 NATOや対ロシア強硬路線に懐疑的な政党の台頭が欧州政治の不安定要因となっているのは、皆さんご存じのとおりです。

欧州各国は依然としてアメリカが世界の警察官として戻ってきて、 最後の最後で問題を解決に導いてくれることへの期待を捨てていません。

しかしトランプ政権が見ている景色はどうも異なるようです。 アメリカのトランプ政権が掲げる政策的な優先順位は、欧州各国や日本を含む同盟国が期待するような“世界を守ること”ではなく、あくまでも“アメリカの国際情勢における負担を減らすこと”に置かれています。

これは孤立主義というよりも、コストに見合わない秩序維持から距離を置くという現実主義的発想だと考えられるでしょう。

ロシア・ウクライナ戦争による混乱や、イスラエルが自国の利益に則って、力任せに縦横無尽に暴れ、 “法による支配”という自由主義陣営が大事にする基本ルールを踏みにじる現実を目の当たりにしても、 欧州はまだ冷戦後の世界観に立っているように見えます。

一方でアメリカは、その世界観から既に半歩外へ出て、アメリカ第一主義を推し進め、 国内外でMAGA (Make America Great Again)を実現しようとしています。 それに反するもの、邪魔になると考えられるものとは距離を取るという姿勢が明確に示されているのが、今のアメリカ外交です。

この欧米間に漂う温度差は、この先さらに大きくなるでしょう。 そしていずれ欧州は“アメリカのいないNATO”の存続の可否および必要性の有無と、 (マクロン大統領がずっと提唱してきた)欧州独自の安全保障体制の構築と強化という、 これまで想像すらしなかった問いを真剣に考えなければならなくなるかもしれません。

そして、これはすでによく問題提起されている問いではありますが、 【果たしてG7は現在の国際情勢の羅針盤、そしてリーダーとしての役割を果たし続けるのにふさわしいフォーラムかどうか?】 という新しい世界の現実と向き合わなくてはならなくなっています。

この問いは、直ぐに答えが出る問いではないですが、国際情勢が刻一刻と変化し続ける中、 そのまま目を閉じて放置しておいていい状況ではないことも現実でしょう。 今後の国際社会の在り方を考えるにあたり、世界はこの問い、つまりG7の有用性と必要性に対する答えを探さなくてはなりません。

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