各国が「対話」により妥協点を探ることが、ますます困難になりつつある世界情勢。かような状況がエスカレートした先には、どのような結末が待ち受けているのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦が読み解く国際情勢の裏側戦略インテリジェンス・レポート』では元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、新たな局面を迎えた米国とイランの対立や中東情勢を「調停のプロ」として分析。さらにCIA長官のモスクワ訪問やドローン戦を加速させるウクライナの動向を例に取り、「条件」から「通告」へと変わりつつある国際交渉の現在地を読み解いています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:沈黙が語る交渉術-「条件」から「通告」への転換
沈黙が語る交渉術-「条件」から「通告」への転換
「今週、世界は言葉ではなく、沈黙で交渉していました」
そう言いたくなる一週間でした。米国はイランに対して制裁という名の最後通牒を突きつけ、CIA長官は外交官の代わりにモスクワへ降り立ち、ウクライナは軍人ではなくドローンだけの軍事パレードで独立記念日を祝いました。
どれも「条件を話し合う」交渉ではありません。「我々はここまで知っている、あるいはここまでやる」という一方的な通告です。
私はこれまで30年近く、紛争当事者の間に立って交渉を組み立ててきました。その経験から申し上げると、交渉が行き詰まったとき、当事者は二つの道のどちらかを選びます。
一つは、対話のテーブルに戻り、譲れる部分を探し直す道。もう一つは、相手に選択の余地を与えず、既成事実を積み上げていく道です。
今週の国際情勢を眺めていると、後者を選ぶ主体が驚くほど増えていることに気づかされます。
イランへの二次制裁、ホルムズ海峡での通航料構想、ラトクリフCIA長官の電撃訪露、ヨルダン川西岸E1入植地の入札公示、中露艦隊の共同航行など、いずれも、相手の合意を待たずに現実を動かしてしまおうとする動きです。
交渉の作法から見れば、これは決して褒められた手法ではありません。しかし、交渉が行き詰まったときに現実がどちらへ転がるかを理解しておくことは、外交官であれ、経営者であれ、リスクを管理する立場にある方には避けて通れない仕事だと思います。
付け加えるなら、通告という手法そのものを否定するつもりはありません。交渉の現場でも、明確な意思表示が突破口を開くことは確かにあります。
問題は、通告を発する側が「相手にも選べる余地を残しているか」という一点です。
「選択肢を完全に奪ってしまえば、相手は失うものがなくなり、かえって予測不可能な行動に出る」
これは私が紛争調停の現場で、何度も目にしてきた失敗の型です。
今週登場する主体のいくつかは、この境界線をすでに踏み越えているように見えます。
今週号では、この「通告の季節」とでも呼ぶべき一週間の動きを、中東、ロシア・ウクライナ、朝鮮半島、東アジア、日本自身のエネルギー戦略、そして世界各地に広がるその他の火種という、7つの窓から眺めていきます。
最後に、この一週間から私たちが引き出すべき教訓を、調停官としての視点からまとめます。
この記事の著者・島田久仁彦さんの新創刊メルマガ









