トルコのロシア軍機撃墜で考える。敵の敵は味方か、それとも敵か?

 

毎日新聞の1面下に掲載されるコラム「余録」、今朝は古代インドの宰相カウティリアの「実利論」の引用から始まっています。マキャベリなどたわいもないと思えるほどの政治的実利主義だと、あのマックス・ウェーバーが評したものだそうで、要は、「敵の敵は味方」という考え方みたいですが、その書を引用しながら、「余録」は、ロシア軍機トルコ撃墜された事件について、「敵の敵も敵」だったなどと、ちょっと変なことを言っています。でも、これは、トルコとトルクメン人武装勢力の間柄が「同士ではなかったということなのではないでしょうか。

ロシアが爆撃を加えていたシリア反体制勢力の一つ、トルクメン人武装勢力は、実は民族的にトルコと近い人たちだったわけですね。つまり、トルクメン人(「敵」)とトルコ(「敵」の「敵」)は、実は家族同士だったということ。「敵の敵同士という一面的関係で埋まらぬ利害対立は、他にもIS包囲網のいたるところに潜んでいる」と「余録」も書いているけど、「家族」という概念を入れればスッキリする。

もう一つあります。

ロシアにとってトルコは「敵の敵」ではなく、本当は「敵の味方」だったとすればどうだろうか。確かに、ロシアの爆撃に晒されていたのは民族的に近いトルコ系の人たちだったが、実はそれ以上の関係にあったのかもしれない。例えば、トルコ政府あるいはその当局者の誰かがISの石油大儲けをしていて、トルクメン人武装勢力はその仲介をしていたとか…。こうなると、トルコとISとトルクメン人武装勢力は、契約関係で結ばれた間柄、相互に「使用人」だったとしたらどうでしょう。トルコは、ISにとってもトルクメン人武装勢力にとっても、契約によって結ばれた「味方」ということになる。

トルコにとって「家族」であり「使用人」でもあるトルクメン人武装勢力がロシアに攻撃されれば、それをなんとか阻止したいと考えるのは理の当然で、ついには露軍機の撃墜に至ったということなのではないですかね。まさか、ISの石油儲けられなくなったら困るのでと正直に言えるわけもなく、飽くまで「領空侵犯」を理由にはしたけれども。こうなると、早い話、ロシアにとって、トルコは敵の味方=敵そのものということになりますね。

以上、田中真紀子さんの観察眼に発した分析道具は、案外切れ味鋭いものだったのではないかと思います。

image by: thomas koch / Shutterstock.com

 

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著者/内田誠(ジャーナリスト)
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