トヨタが突然、全工場の生産を全面停止。一体、何が起きたのか?

 

リスキーな「トヨタ生産方式」

【東京】は、解説記事「核心」をこのテーマに充てている。ライン停止の理由の中に「大雪」をカウントしていない。見出しは「『在庫最少』リスクと裏腹」。リードは「自動車メーカーは震災の教訓から、複数の部品メーカーに発注するなどの危機対策を進めてきたが、生産停止を避けることはできなかった」としている。

本文の書き出しは、トヨタに部品を提供しているメーカーの社長の言から。「大変なことになった。これから急いで対応を考えないと」。今回の事態がどう「大変」なのか。1つには新年度を控えた1~3月が年間を通して最も新車販売が忙しい時期、まして、新型プリウスの好調で、停止による減産は8万台に上ってしまう。つまり、とにかくたくさんクルマを作らなければならないときに、ラインを留めざるを得ないということだ。

愛知製鋼はエンジン本体や変速機に使われる特殊鋼を月に7万トン造り、半分をトヨタとグループ企業に供給していたという。特殊鋼は素材の配合の違いや形状によって数千種類もある。愛知製鋼は他のメーカーに代替生産を依頼したが、一部の部品で納期に間に合わない事態となったという。約3万点の部品のうち1つでも欠ければクルマは作れない。そこで全工場停止となったと。

記事は、震災で生産の本格再開まで半年もかかった教訓から、自動車各社が発注先の複数化や在庫の一定量確保などの対策を進めたこと、それでも、今回は特殊鋼が部品メーカーの製品のどこに使われているか確認するのに時間がかかってしまい、代替品を安定的に生産ラインに投入する筋道を作り上げる前に、在庫が底をついてしまったという。特殊鋼の在庫は、他の一般的な部品と比べて格段に多い平均1ヵ月分あったにも関わらず、だった。

記事は最後に、部品の在庫を極力持たず、必要なときに必要な分だけ調達する「トヨタ生産方式」に触れる。災害や今回のような事故が起きれば、生産停止と隣り合わせ。しかし、トヨタ系部品メーカーの幹部は、無駄を省いた競争力の維持するためには、不測の事故によるこうした影響は避けられなかったという。

uttiiの眼

在庫が少ない→事故で供給途絶→ライン停止という図式を誰しも思い浮かべるが、そこまで単純ではないということのようだ。結局、クルマの生産とは、3万点の部品を日本各地、場合によっては世界各地の部品工場から組み立て工場に集めてきて、必要なときに必要な場所に、必要なだけ、その部品が用意されているという状態を作り出すことに他ならないのだろう。愛知製鋼の特殊鋼は様々な部品に使われているというから、その各部品メーカーのところに、やはり必要な特殊鋼が必要なだけ運び込まれていることが必要で、今回は、そうした「設計図」が描ききれず、在庫が払底したということかと思う。この事態を無傷で乗り切るためには、特殊鋼の在庫1ヵ月程度ではまだ少ないということになる。トヨタとしては頭の痛いことだろう。今回のことで失ったものと、在庫を増やすこととを天秤に掛けて、どんな答えが出てくるのか

だがどうにも腑に落ちないことがある。「特殊鋼が部品メーカーの製品のどこに使われているか確認するのに時間がかかった」と《東京》の記事は言うのだが、そんなことがあり得るだろうか。やはりここでも、トヨタがラインを留めた本当の理由はハッキリしない。

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