日本車はもう売れないのか? 世界のクルマ産業における日本の「現在地」

日本車はもう売れないのか? 世界のクルマ産業における日本の「現在地」
 

中国の脅威はつまるところ圧倒的な人口の多さによる。

1966年(昭和41年)日産がサニー、続いてトヨタがカローラを発売して日本のモータリゼーションが夜明けを迎えた。庶民が頑張ればなんとか手に入れることが出来る大衆車の出現。あれから50年、紆余曲折を経て今や日本は世界中で2500万台近くのクルマを生産し販売するトップランナーの地位に登り詰めている。

ヘンリー・フォードがモデルTによって作り上げたモータリゼーションから遅れること50年で追いつき追い越した。日本が成し遂げたその事実は誇っていいと思うが、隣国中国の急成長ぶりを肌で知る者としては世界の潮流が急激に変化していると思わざるを得ない。

なにしろ今から四半世紀前の1990年。中国全土で550万台余だった自動車の保有台数が、2014年末には1億5000万台と約30倍増とし、アメリカに次ぐ世界第2位の自動車保有大国に急成長。日本は数年前に軽く抜かれてダブルスコアの3位に後退させられた。

中国の脅威は、わずかこの10年間で一気に保有台数が5倍増という急成長をほぼ国内の生産拡大だけで実現した点にある。2015年の販売台数は2500万台に迫った。日本は日米自動車協議妥結(1995年)に伴うグローバル化/現地生産化への方針転換から20年の歳月を要して倍増の世界生産台数2000万台超えを実現させたが、中国はミレニアムの2000年(1600万台余保有/207万台生産)から1億5000万台超保有/2450万台年間生産へと、まさにドッグイヤーのスピード感で急成長した。

バラク・オバマ米国大統領の歴代大統領初の広島訪問と、歴史的ともいえる演説の余韻が醒めやらぬ今の気分だが、昨年のアメリカにおける自動車販売はリーマンショックで深く沈んで以来の完全復調を強く印象づける1700万台余の史上最高を記録した。

その裏にはドルの大量発行や前回の恐慌状況を生み出したサブプライムローン問題にも似た構造があって、映画『ビッグショート:邦題マネーショート”華麗なる大逆転”』で描かれたリーマンショック前夜の状況が直ぐそこにあるという意見も聞いている。SUVやピックアップトラックが飛ぶように売れている好況感を伝えることはあっても、その背景まで読み解くジャーナリスティックな視点が伝わらないのは何故だろう?

なにかと不評の安倍晋三内閣総理大臣だが、今回のサミットでは『リーマンショック前に似た状況』と財政発動を促す発言して各国首脳の失笑を買ったという。アベノミクスを皮肉る論調が大勢を占めて話題にならなかったようだが、アメリカの放漫財政やドイツ連銀の危機や英国キャメロン首相のパナマ文書スキャンダルといった、敢えて欧米と一括りにしたくなる元凶を抱える首脳達に与するのも何か変な感じだ。

多様でモザイク模様の世界をモノトーンで語ろうとするのは無理がある。日本国内を覆う、デフレ脱却が実感できないもやっとした感覚。中国のバブル崩壊が懸念されながらも一向に衰えることを知らない自動車市場の活況。アメリカのシェール革命から一転した明るいムードと消費大国の復活ぶりによるバブリーな雰囲気。VWディーゼルゲートに象徴される退っぴきならないドイツ中心のEU経済とプレミアムブランドだけが元気がいい空騒ぎ状態。新興国/途上国に期待するには先進国との格差が拡がりすぎている。

いったい何処に合わせれば良い? 過去10年の中国のような強力なエンジンで世界を引っ張る国は見当たらない。急拵えには急降下の懸念が孕むことは中国を見れば分かる。なんだかキナ臭い雰囲気ばかりで、爽やかにこちらのクリーンな方向へとはならない。

image by: longtaildog / Shutterstock.com

 

クルマの心』 より一部抜粋

著者/伏木 悦郎
どうしたら自動車の明るい未来を築けるのだろうか? 悩みは尽きません。新たなCar Critic:自動車評論家のスタイルを模索しようと思っています。よろしくお付き合い下さい。
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